
目次
福島原発事故は終わっていない!
最高裁判決を許さず、福島原発事故の責任を追求し続けます:佐藤和良
佐藤 和良(福島原発刑事訴訟支援団団長)
福島原発刑事訴訟支援団のみなさま
この13年間のご支援とご協力に、あらためて、心から感謝申し上げます。
日本最大の公害事件である福島第一原発事故の刑事責任を問う東電刑事裁判は、最高裁判所が上告を棄却し被告の無罪が確定しましたが、全ての被害者と被災者を踏みにじり、国民の生命と財産を窮地に陥れ、甚大な被害をもたらしても、原子力事業者は責任も問われず、新たな原発事故を招くものと指弾されています。
私たちは、4月30日、最高裁判所への抗議行動を行い、福島原発告訴団と連名で、最高裁判所長官と第二小法廷宛の抗議文を提出し、4月30日東京、5月11日福島で抗議報告集会を開催しました。
東京電力福島第一原発事故から14年、政府の原子力緊急事態宣言は未だ解除されず、放射性物質が大気中と海洋に放出されています。被害者の苦難は続き、頻発する労働者の被曝事故の中、事故収束作業が続いています。
私たちは、無念の死を遂げた被害者と遺族、被災者の14年の想い、これまでの道のりの中で鬼籍に入られた多くの方々の想いを、決して忘れません。
これからも東電株主代表訴訟はじめ全国で裁判を続ける皆さん、各地に生きる被害者・被災者の皆さんと共に、今も続く福島原発事故の被害に向き合い、事故の真相究明と被害者の真の救済、原子力行政におもねる司法の現状を変えるため、あきらめずに活動を続ける決意です。
9月以降、各地で報告会の開催、裁判報告集の作成、訴訟記録の保存、裁判記録の公開の場の設定などに取り組み、事故と廃炉の監視も進めて参ります。
引き続きのお力添え、何卒よろしくお願いいたします。
(2025年6月30日)
「東電刑事裁判 被害者を踏みにじり、次の原発事故を準備する最高裁決定を許さない!」抗議集会での発言要約
2025年4月30日と5月11日に開かれた抗議集会「東電刑事裁判 被害者を踏みにじり、次の原発事故を準備する最高裁決定を許さない!」での弁護団報告、講演、ゲストトーク、支援団メンバーのスピーチを要約し、再構成しました。報告やスピーチ等の録画は、支援団YouTubeチャンネルからご覧頂けます。
http://www.youtube.com/@shiendan
弁護団の報告
海渡雄一弁護士
僕が真っ先に言いたいことは、我々が告訴をして、検察審査会による強制起訴議決を得て刑事裁判が開かれなかったら、東電内部で津波対策がこれだけ出ていたという驚くべき証拠は歴史の闇に葬られていたということです。
僕たちは福島地検に告訴した。けれども不起訴にしたのは東京地検。不起訴になったその日、事件を東京地検に移送して、そこで不起訴にした。何のためか。福島の検察審査会だったら絶対強制起訴になる。でも東京だったらならないかもしれないと思ったのでしょう。検察審査会では11分の8以上の多数による議決を2回取りました。これは本当に奇跡でした。これがなければ、今僕らが手にしている証拠は全て闇に葬られたままになっていたはずです。
指定弁護士は素晴らしい人が選ばれましたね。だけど裁判官がひどかった。僕も東京地裁の永渕裁判官を思い出すと気分が悪くなる。福島の皆さんが早朝からバスに乗って東京まで来られていたわけです。お年寄りも多かった。夏場の暑い時期に傍聴するときに、裁判所は水まで取り上げたわけです。身体検査もあってね。でも被告人の前にはペットボトルの水がある。これはひどいじゃないかと思って、「裁判長、傍聴人にペットボトルだけでも持たせてほしい。熱中症の人も出ますよ。」とお願いしたんですよ。しかし「認めません」と言いましたね。とにかく驚くべき冷酷さ。この事件を告訴して公判に導いた人たちに対して、裁判所は最初から敵意を持っていたんじゃないかなとも思います。
そして最高裁の上告棄却に草野裁判官が回避しなかったことも許せないけれど、三浦裁判官が回避をした。彼の経歴を見ても、この刑事裁判に関わった痕跡はありません。だから何か言いがかりをつけて審理から立ち退かせたのではないか。
この裁判の一連の経過を見ると、僕たちは国家権力、そして裁判所の敵愾心みたいなものを浴び続けていたんじゃないか。だけれども、我々が勝ち取った刑事裁判の記録をもとに、株主代表訴訟のすばらしい一審判決などを得ることができた。この刑事裁判の記録を歴史的記録にしていかなければならない。
大河陽子弁護士
最高裁の上告棄却決定の誤りということでお話しをさせて頂きます。
最高裁は、公訴事実(起訴状で示す犯罪事実)は、被告人等において原発に大津波が襲来する「現実的な可能性」の認識があったことを前提にしていると書いています。しかし公訴事実には、「現実的な可能性」という記載もなく、そのような前提になっていません。控訴審でそれを勝手に設定してしまったのを、最高裁もそのまま引き継いでいます。「現実的な可能性」の定義もされておらず、何を指してるのかも分からないという、そもそもの問題があると思います。
長期評価の見解について、最高裁は、積極的な裏付けが示されていないとしますが、長期評価は専門家が集まりコンセンサスを得た理学的根拠のあるものであることを、島崎邦彦さんは証言しています。
また、地震本部による信頼度の評価が低かったとしますが、信頼度とはデータの個数によって機械的に付けられる評価であって、信頼できるか否かとは関係ありません。
また、行政機関や地方公共団体によって全面的には取り入れられていなかったとしますが、原発の安全確保に第一義的責任を負うのは原発事業者である東電です。
この「現実的な可能性」が何を指すのかは不明ですが、仮にこれが、いつ、どこで、どのくらいの規模で自然現象が発生するのかについての確実な予測を指すとすると、それは現代の科学技術水準からかけ離れた規範を求めていることになります。
指定弁護士の先生方は、記者会見で出されたコメントの最後に、「検察審査会で示された民意を生かすことができず残念でなりません」と悔しさをあらわにしていました。今回の最高裁決定は、原発事故の責任を正しく裁いたものだとはいえないと思います。ここまでなりふり構わず捻じ曲げないと、被告人らを無罪にできない、私たちを勝たせるしかないというところまで追い込んだのだと思います。今後こういう決定がないように、引き続き最高裁の誤りを広めつつ、最高裁を監視していくということで頑張っていけたらと思います。
甫守一樹弁護士
大河弁護士の報告にもあった「現実的な可能性」が、この最高裁決定の最大の焦点だと思います。原子力事業者は、原子力関係法令の下、事故の確率は1万年に1回とか100万年に1回にしますと言っている。そして、万が一の深刻な事故を防ぐべく、極めて高度な注意義務を負っているはずの原子力事業者の役員において、事故の「現実的な可能性」を認識し得なかったために無罪にするということで本当にいいのか、そこが一番問題になる。それについては、結局、高裁も最高裁も何も言っていない。
そして学説上、業務上過失致死傷罪の構成要件としての予見可能性について、「現実的な可能性」を認識し得たことを必要とする学説は見当たらない。もし、現実的な結果発生の予見可能性が必要というのであれば、稀にしか起こらないが甚大な被害を起こしうる事故のリスクを認識しても、「現実には起こらないだろう」と高をくくり、対処しないことが許容される世の中になってしまう。私はこの国の司法が、低頻度の大規模事故には備えなくてもいいと宣言して、更なる歴史的悲劇を、むしろ早期に招こうとしているように感じてなりません。
東電株主代表訴訟の地裁判決では、津波が来ないだろうという認識が東電の中では一般的だったかもしれないが、それ自体が、原子力事業者として許されない想像力の欠如と安全性への意識の甘さだと、はっきり書いてあります。
そして、2022年の6・17判決では、長期評価は合理的だ、ということを前提にしないとできない判示をしています。
草野裁判官の補足意見があります。私は、これも決定書の一部として受け止めなきゃいけないと思っているのですが、読んでいきますと、非常に、「何だコレ」とびっくりしました。あれだけ長期評価をこき下ろしていながら、長期評価は信頼性があるんだと言わんばかりの判断をしている。あえて整合性のある説明をするとすれば、長期評価には東電の役員が自ら原発を停止するほどの信頼性は無いが、しかし国にはちゃんと説明しなければならない程度の信頼性がある。そして報告さえすれば、結果的に止まりましたよ、ということを草野裁判官は言いたいらしい。
は?と思うような話なんですけれど、要するに、武藤氏や武黒氏が国にも報告せずに黙っていたことはよろしくないと言わざるを得なかったし、何かやっていれば事故は回避できた可能性があると言わないといけないと、草野裁判官としても思ったのでしょう。
最高裁も、全部東電がやったことを正しいと言うわけじゃないという姿勢は感じます。まだまだ民事裁判では役員の責任を追及できます。刑事裁判が終わっても我々の闘いは終わっていません。
北村賢二郎弁護士
まず最初に確認したいことはこれです。「私は決して負けない。勝つか学ぶかだ(I never lose. Either I win or learn.)」。非常に有名な、ネルソン・マンデラ大統領が言った言葉です。まさに今回の最高裁の決定の意義というのは、我々にとってはこういうことだと思ってます。少なくとも今日この集会に集まった人々においては、負けるということは存在しない。勝たないということは負けるということではなくて、学ぶこと、今後どう生かせるのかということがさらに大事なんじゃないかと考えています。
東電刑事裁判の効果を振り返ってみると、原発事業者の経営陣個人に対してどう認識させたか、これが非常に重要だと思います。会社が責任を取るってことではなくて、自分が直接に責任を取らなきゃいけないんじゃないかと思わせること。そのことを認識させるということは、経営に対する責任を持った行動を取らせるっていう極めて重要なインセンティブになると思います。例えば浜岡原発も、防潮堤を2回かさ上げしてると思いますけど、あれも言ってみれば東電刑事裁判の効果の一つだと思います。
福島事故前に女川原発の差止を認めなかった元裁判官の発言があります。裁判長をしていた時、なんで住民はそんなことに怒ってるんだ、気にするのはおかしいだろうと思っていた。けれど原発事故が起こって、自分の子どもには負の遺産を負わせたくないという親の気持ちを思うと、私自身の考えも変わってきた。私は裁判官として真剣に考えていませんでした。と、こういう発言をされたんです。こういった裁判官の心情からも、裁判官や、原発はまだいいんじゃないのという人に必要なのは、原発事故の被害の実相を正確に認識すること、この1点に尽きるというふうに思います。
私は、妻の実家が広島で、子どもを連れて原爆ドームを見に行きました。やっぱりすごい迫力ですよね。あれが残っていて、被害の実相というものを少しでも感じることができるということが強烈に重要なことなんだなというふうに思いました。原発事故も同じだと思います。皆さんが体験された、苦しいと思われたこと、悲しいと思われたこと、そういったことを追体験できるように、記録をちゃんと残しておくことは本当に大事なことだと思います。
河合弘之弁護士
この裁判は、検察官と裁判所、そして政府からの敵意と悪意に囲まれて進んだ訴訟だと思います。なんでそこまでして法律をねじ曲げ、権力を悪用し、正義の実現を妨害するんだろうかということを考えてみないといけない。その根源はもう原子力ムラにあるわけです。原子力ムラはなんでこんなに頑張るんだというと、ひとつは原発による膨大な利益ですよね。原発を1基1日動かすと、今だと2億から3億利益が出るんですね。それを何が何でも死守したいという、今だけ、金だけ、自分だけという、そういう欲求が根本にあります。もう一方、いや、原発は止めちゃダメなんだと。プルトニウムを作っておかないと、いざという時に核兵器を作れるようにしないと、と考えるどす黒い保守勢力。それは普段は顔を出さないが、原発がなくなりそうになるとムクムクと出てきて、我々の運動を潰そうとする、そういう意図がある。
新規制基準になってからは、事故は稀であるかもしれないけど、起きるかもしれない。起きることを前提にした法律制度になったんだよと。メリットとリスクを比較して、やっぱり原発を動かすかどうかは「社会通念」で決めるしかないんだと言い、規制委員会の認可が下りたものは動かしていいんだというような判決がどんどんと続いている。その「社会通念」って何だよと言うと、それは法律なんだと言う。選挙で選ばれた国会議員が決めた法律、これが民意だと。 法律イコール民意なのか?そうじゃないことが民主主義の前提なんじゃないのか。それだったらもう司法の独立なんかいらないじゃないか、こういうことになるわけですよね。だけど裁判官はそこに逃げ込む。原子力ムラがキャンペーンで空気を作る。裁判官もそれを読んで、みんなそっちになびいていっている。では僕たちはどうしなければならないか。その「社会通念」を変えていく。世論を掻き立て続ける。そういう運動を続けていかなければいけない。
今日、海渡さんとも話したけれど、敗訴確定したその裁判の集会で、こんなにも来てくれるなんてすごいよね、と話しました。皆さんが今日、これだけ集まってきてくださっていることが希望の星です。諦めてはいけない。私たちは闘い続けないと彼らは野放図にやりたい放題です。「社会通念」をいい方向に変えていくために、この闘いをこれからも皆さんと継続していくことを、お互いに約束しようではありませんか。

木野龍逸さん(フリーランスライター)・添田孝史さん(科学ジャーナリスト)
「御用学者と原子力ムラ そして今後の真相解明は」
添田: 原子力ムラの支配構造って、結局はお金を配るか、ポストを用意するかという、割と分かりやすい構造になっています。
木野: 東電がどこにお金を出しているかというと、土木学会。それから地震予知総合研究振興会。土木学会は裁判でもよく出てきた、津波評価方法を決めたりしたところですね。
添田: 地震予知総合研究振興会というのは、例えば長期評価を決めてる地震調査研究推進本部が、どこかの活断層のことを知りたいと思うと、ここへ委託して実際の調査をしたりする理学系の団体です。
木野: では、2008年7月31日の武藤さんの「研究を実施しよう」の決定から。
添田: 今回の事件の大きな節目ですね。津波対策をやらなきゃいけないだろうと東電社員が思っていたのを、武藤さんが「研究を実施しよう」と言ってひっくり返した。なぜ研究をすると対策しなくていいのか。そこに土木学会や研究者が関わってきます。
木野: すごい研究でもしてたんですか?
添田: いや、研究をするという名目で時間を稼いでいただけです。2006年に新耐震指針ができて、3年以内に報告しなければならなかった。それができないので武藤さんは迂回路のルートを作った。本来なら公開の審議会でこの津波を想定するかどうか審査しなければならなかった。
木野: 迂回路のルートとして、土木学会の非公開の審議で「研究」したんですね。
添田: そのやり方を通すために、東電社員は根回しに行きました。原子力安全・保安院の委員を務める学者に、表ルートでなく迂回路ルートで行くことを許してくださいとお願いした。
木野: その根回しの結果の資料があります。
添田: この根回し表が裁判で出たときはびっくりしました。さすが東電、こんなものまできっちり作っているとは。この中で主役級は東北大の今村文彦さんで、迂回路ルートでいいよと了承してくれたと。
そもそも保安院の審議会に通さなければならなかったものですが、東電の山下和彦センター長の供述調書に「保安院は、委員の判断に従ってくれると考えていた」とある通り、東電はそれでいけると考えていたんですね。
木野: 保安院の審議会の委員って、なぜこの人が選ばれてるんだろうという人がいますよね。審査される側が審査する側をコントロールするようなところが見えます。
添田: 審議会のメンバーの学者の中でも電事連とズブズブな人がいて、電事連の議事録に「先生に言ってうちの意見を通してもらおう」なんて書いてあったりする。
木野: そういう審議会の委員の先生に東電が「おこづかい」をばらまいている?
添田: 東電が学者に根回しをしに会いに行くと、技術指導料として謝礼を払います。4~7万円。あと、別に講演会を開く。講演謝礼という形で10~30万円とか。これ以前に、東京大学の大学院生くらいの若手に目をつけて、コネクションを取っています。
木野: 2009年の東電社内のメールで、岡村行信さんに「貞観地震の想定が不十分で厳しく指摘された」とありますが、これは?
添田: この裏事情が東電のメールに書いてあって、「津波、地震の関係者にはネゴしていた」と。津波や地震が専門の学者には根回ししていたけど、地質が専門の岡村さんは根回しから漏れていたと社内に報告していたんです。
木野: 次は保安院の方々のほうに行きます。第二の人生をどうバラ色に送っているかですが。
添田: 長期評価が出た2002年当時、津波想定を担当する安全審査課の平野課長は、後に中国電力の副社長になり、その後、関連団体の会長になっていますね。
木野: そんな人ばっかりなんですけど…。耐震班長の川原さんは?
添田: 川原さんは2017年に取材したときは、川崎地質の理事をされてました。コンサルで電力とも縁が深い会社で、裁判で証言もした元東電社員の酒井さんが、いま技術顧問をしています。
木野: その耐震班の責任者だった高島さんは、新潟工科大学ですか。わりと電力からも人が行っているところですね。
添田: 平野さんの次の課長が佐藤均さんで、中部電気管理技術者協会の会長になりました。その次の課長が森山さんで、その次が野口さん。野口さんも関連団体の専務理事です。野口さんに「余計なことを言うな」と言われたのが小林勝さんですね。
木野: 小林勝さん。保安院で有名な方ですね。TMI総合法律事務所の参与ですか。弁護士が620人いる大事務所ですが、参与は1人だけですね。そして森山善範さん。森山さんも訴訟の証拠で出てきましたね。
添田: 森山さんは、貞観地震をちゃんと検討したら福島でプルサーマル運転が遅れて経産省に怒られるからやらなかった、と検察に供述した正直な方です。
木野: その後、鹿島建設の執行役員になりました。
添田: では最後に。東電がどうして事故を起こすに至ったか、分かっていないことはまだ多いです。刑事裁判の証拠ではたくさんのことが分かりました。国会事故調の資料は全然出てこなくて死蔵されてるんですけど、引っ張ってくる法律もなく難しい。そこで政府事故調がどうしても見たいなと思うんですね。
なぜかというと、政府事故調は772人のヒアリングをやっています。そのうち東電関係者は30人くらい。ほぼ、事故後にどう頑張ったかという内容で、事故前に津波想定をどう引き延ばしたかを知る人の調書は出ていない。今回取材して、2011年9月末までに、キーパーソンの高尾さん、酒井さん、武藤さん、武黒さんのヒアリングされた回数と時間が分かりました。
木野: 政府事故調も国会事故調も、噓は書いていないけど、本当のことも書いていない事がとても多い。それを出していかないと事故の全貌は分からないですね。
添田: 全くそうだと思います。少なくとも政府事故調の核心的なところの証拠は出してほしい。全貌を知りたいと思います。

支援団メンバーのリレースピーチ
谷田部裕子さん(茨城県)
最高裁の上告棄却を聞いた瞬間、私たちのこの国の、社会の進んでいく先に、黒い暗い雲が垂れ込めているのがはっきりと見えた気がしました。これからの若い命が思いやられて、落胆しました。裁判は、あの酷い無罪判決が正されることなく終わってしまったけれど、今日のお話を伺ううちに、それは法廷という形の上でのことなんだとも思えました。
ここに来ると、お名前も分からずお声も聞けてなくても、皆さんと一緒にいることで何かを分かち合えたから、今までくじけずにやってこれました。これからも、場や形は変わっても同じことを、皆それぞれに続けていくんだろうなという信頼感というか喜びがあります。ありがとうございました。
橋本あきさん(福島県)
私は講談師の神田香織さんの「講釈師、見てきたような嘘をつき」の出だしが好き。今回の最高裁の判決は『事故の予見はできなかった』とあっけなく3被告の無罪判決を出した。最高裁判事は講談師ではないはずだ。私たちは一審でも二審でも「現場検証をしてください。現場を見てから判決を出してください。」と丁寧に最高裁前でも同じことを言い続けてきた。それなのに現場を見ていないのに見てきたような嘘を言い放った。多くの死者、路頭に迷う人たちが悪者扱いの判決だ。東電福島原発事故はこのままで終わらせられない、引き続きなにかしらの方法で繋いでいきたいと思っています。
蛇石郁子さん(福島県)
2012年6月11日、みんな若くて、やるぞという感じで頑張っていたのが映画を見て分かりました。この間たくさんの人を見送った辛さが私の胸の中にはあります。
3月3日、冷たく強い風雨の中、最高裁に最後の望みをかけてお願いしたその3日後、上告棄却を聞いたときは、本当に愕然として、大変なショックを受けました。あんなに「公正な裁判をしてくれ、厳正な裁判をしてくれ、草野判事は外れてくれ」ってみんなで叫んだのに、大きな圧力がやっぱり働いたと思うと悔しいです。
先日、武藤類子さんの案内で双葉病院を初めて目にしました。裁判官が現地調査に行って、無念の思いを私たちと同じように感じていたらひどい判決は出なかったと思います。
宇野知左子さん(埼玉県)
まさか日本では事故は起きないだろうと思っていた私は、あの事故でガーンと頭を殴られたような思いでした。そして刑事裁判。
私が関わりたいと思った原点の本『福島からあなたへ』を持ってきました。さようなら原発集会で類子さんのお話を聞いて震えが起きました。私はこの後何をしたらいいだろうと思っていたら第二次告訴募集があり、わが町所沢でも説明会を開くと決め、支援団もどんどん募集して運動を拡大していきました。
3月6日は司法記者クラブで会見すると知って、着替えもしないで飛んでいきました。終わっていないと思います。あの人たちは私たちの前から逃げただけで、私たちは不戦勝だと思っています。これからも一緒に頑張りたいと思います。
菅野行雄さん(福島県)
支援団会計を担当しました菅野行雄です。会計を担当していて、この10年間、会員の皆様、支援者の皆様の会費・カンパで、支援団活動を資金面から成り立たせていただいたことに、心から感謝と敬意を表させて頂きます。2016年1月に支援団が動き出して以来、4千数百名を超える皆様の志で、東京での裁判と集会のたびに福島県からの参加を可能にして頂きました。
裁判は終結しましたが、東電原発事故被害は続いていますので、これからも原発事故の責任を求める闘いは続きます。どうぞ引き続き、この闘いに心を寄せて頂けますよう宜しくお願いいたします。
庄司郁子さん(福島県)
私は福島県の三春町に住み、春の本当に美しい桜の景観に感動していますが、今回の最高裁という司法の最後の砦でこんな判決が行われて、ああここでもかと最高に幻滅を感じました。
2011年3.11の地震、そして福島第一原発の爆発。その当時20代の娘ふたりと18歳の受験生の息子がいたので、宇都宮へ2週間避難しました。その頃1回10リットルしかガソリンを入れてもらえなかったので、あちこち回って満タンにして、帰りの半分を残して着いたのが宇都宮でした。そういう大変な思いをすることを原発の近くにいる人たちには是非伝えたい、こういう過酷事故が起きたら大変な人生になるよと本当に訴えたい。原子力ムラや国や東電の思惑に絶対乗らないように伝えていきたい。
小川幸子さん(東京都)
東京に住んでおり、この裁判全部にずっと関わってきました。 3月3日の最高裁行動のまさか2日後に上告棄却が出るなんて信じられず、司法記者クラブに駆けつけました。写真を見ると、幽霊のような顔をしています。石田指定弁護士の「検察審査会の民意を生かすことができなくて残念」との思いに、涙がこぼれそうになりました。判決では被害者についての言及が何もなく残念です。遺族が「トップはきちんと非を認めて責任をとってほしい。」と証言していらしたのが忘れられません。
たくさん出た刑事裁判の証拠を使って、自分も原告である株主代表訴訟がまだ残っています。一審は責任をきちんと認めたとても素晴らしい判決でした。姉妹訴訟である株主代表訴訟も応援していただき、勝っていきましょう。
西澤雅子さん(千葉県→京都府)
私は、微力ながら事務局を務めています。東電福島原発が事故を起こした時期、私は成田空港近くで、畑の付いた自分の理想の家を持っていました。放射能濃度が結構高かったので、家族の健康が心配で、65歳を機に京都の田舎に引っ越しました。私が原発に反対する運動に関わったきっかけは、34年ほど前、不登校だった娘を受入れてくれた六ケ所村の酪農家から、苦労された開拓の話と、「何故、再処理工場が良くないのか」の話を聞き、「再処理工場に反対する女たちのキャンプ」で武藤類子さんに会ったことです。以来、東京で、京都で、脱原発に関わっています。私は、原発に反対し誠実に生きる人たちから豊かな人生を頂きました。「原発反対」の旗を降せません。
佐伯昌和さん(京都府)
京都から4人で来ました。第二次告訴の時、周りは冤罪事件やってはる人が多かって、刑事裁判で人を罪に落とすいうのはちょっと…と。せやけど、みんなが被害者なんやで、福島や関東の人だけが被害者違うで、と話して、1680人ほどの人に告訴人に加わっていただきました。あの3人を有罪まではいかへんでもとにかく被告にと、努力を色々して、告訴団のときには会報をずっと出してきました。
黙っていたら忘れるさかいに、年に一回、「チェルノブイリ・フクシマ京都の集い」を開催しているんですけども、その際に、亡くなられた人見やよいさんのイラストを使わせていただいて、被告武藤栄、武黒一郎をチラシに載せて配ってきました。
今後も、東電のやり口、それをまねする関電のやり口に対して、歯止めをかけていきたいなと思っております。
山内尚子さん(福島県)
味方だと思っていた複数の言論人がこの裁判を「無理筋だった」「被害者でもない運動家が、反原発のプロパガンダのために起こした裁判だ」などと揶揄したことにがっかりしました。
先日、鏡石から仙台までの東北本線車内の線量を測ったら、二本松が高く、宮城県に入ると3分の1に下がりました。乗降する多くの学生を見て「福島の子らは、無用な被ばくを3倍も受けているんだなぁ」と悲しく、申し訳なさで一杯になりました。これでも、私たちは被害者ではないのか?
原発依存社会や事故を許してしまったことに、私でさえ罪の意識で一杯になるのに、事故を起こした経営者がなぜのうのうとしていられるのか。原発事業者の責任を薄め、次の原発事故に道を開いたこの判決を、ぜったいに許すことができません。
佐々木慶子さん(福島県)
元福島県知事佐藤栄佐久さんがこの3月、85歳で逝去された。「県民の命と暮らしを守る」姿勢を一貫して貫き、県民の絶大な信頼を得ていた。中でも国策である原発推進への懐疑心は鋭く、県内全原発10基の稼働停止やプルサーマルの白紙撤回にまで至った。そこに原発推進側の国・東電・原子力ムラからのなり振り構わぬ「知事抹殺の暴挙」を受け、2006年、全く身に覚えのない賄賂容疑で逮捕され、知事辞任に追い込まれた。裁判で最高裁まで闘ったが、「賄賂0円でも有罪」?!という日本の法曹界の大きな汚点を残す理不尽な判決を受けた。そこに追い打ちをかけたのが内堀福島県政による「栄佐久元知事への退職金返還要求」である。裁判でほとんどは免れたものの、必然性のない、根拠薄弱な、情け容赦のないものと言える。
私たちは、栄佐久元知事がどんな不遇時にも正義を貫き打ち立てた金字塔を忘れず、次の大きな原発事故を起こさないように運動を進めていきましょう。
中路良一さん(福島県)
冒頭の映像を見て、もうこんなに時間が経ってしまったのかと、ものすごく感慨深いものがあります。最高裁の上告棄却が出ても、敗北感みたいなものは全くありません。先日、私は「関西生コン」の女性組合員の闘いと生き方を描いた映画を見ました。警察、検察は初めから労働組合ではなくて、壊滅対象とし刑事事件として扱い、SNSとYouTubeを活用して、悪人だと印象操作した。これは斎藤兵庫県知事や立花孝志氏と同じ手法だ。ある関西生コン組合員には懲役10年が求刑された。殺人犯でもない限り、懲役10年などありえない。正当な組合活動のため、当然ですが無罪判決が続いている。この闘いに学び、諦めることなく頑張っていきたい。
五十嵐和典さん(福島県)
私は、三浦守判事はこの裁判体では東電の刑事責任を認める判決は出せないと判断し、審理に加わって反対意見を書くのではなく、世間にアピールする方法として自ら審理から外れることにしたのではないかと思っています。原告らが東電と密接な関係にある草野判事に回避を求めて署名活動をしているが、草野判事は意地でも動かない。だから三浦判事は回避することで、判決はおかしいと訴えているように思う。
12回にわたる最高裁への要請行動、抗議集会は決して無駄ではなかった。「草野判事に法律家としての矜持が少しでも残っているなら、自ら回避せよ」というシュプレヒコールは、要塞のような最高裁の岩に突き刺さったと信じています。
地脇美和さん(福島県→北海道)
刑事告訴から東電刑事裁判を一緒に闘っていただき、本当にありがとうございました。弁護団のみなさま、たくさんの書面を書いて、裁判所に提出して頂きました。いつも励まして頂き、「目の前のことに一喜一憂しない」は私の座右の銘になりました。全国10か所に支部ができ、みなさんのお力で1万4千人を超える人々で告訴・告発し、強制起訴裁判につながりました。東京連絡会の皆さんは、脱原発運動の大先輩方ですが、受付から何から裏方を引き受けてくださり、心強くとても感謝しています。
私は、いわゆる「3.11後の人」です。ある人から原発事故前に、みんなが脱原発の活動をしてくれていたら、事故は起こらなかったのに!と言われ、返す言葉がありませんでした。長年原発の危険性を訴え活動されてきた方々が、自分たちがもっとがんばっていたら事故を止められたかもしれない、と反省されていました。しかし、反省して責任を取るべきは東電と国、御用学者とメディア、裁判所です。
刑事裁判の証拠やジャーナリストの方々の調査で、隠されていた原発事故に至る過程が明らかになり、東電株主代表訴訟や損害賠償裁判に生かすことができました。しかし、6・17最高裁判決以降、コピペ判決が続いています。今年も、司法をただす最高裁包囲行動を22団体で行います。私たちはあきらめません。

ゲストトーク
後藤秀典さん(ジャーナリスト)
私は、東電と最高裁判事の癒着を暴いた『ルポ 司法崩壊』という本を出版したんですけれど、この刑事裁判についてお話しすると、刑事裁判を審理したのは、6・17最高裁判決を出したのと同じ第二小法廷です。6・17最高裁判決を出した時は、菅野博之さんという裁判長がいて、あと草野耕一さんと岡村和美さんが多数意見で「国に責任はない」という判決を出しました。菅野さんはその後、東電株主代表訴訟で東電側の代理人をやっている長島・大野・常松法律事務所という巨大事務所に天下りしています。
今回の刑事訴訟の上告を棄却したのは、草野さんと岡村さんと、その後入ってきた尾島明さんという方です。草野さんは、さんざんみんなで「回避しろ」と言ってきた人で、西村あさひ法律事務所という巨大事務所の代表経営者だった方です。東電とも非常に結び付きが強い。岡村さんはもともと長島・大野・常松法律事務所に勤めていた。つまり、東電と非常に結び付きが強い、巨大法律事務所に関係のある判事によって最高裁の見解を形作ってしまったと言えます。
6・17最高裁判決の影響はとても大きくて、避難者訴訟では14連敗、避難者側が負けています。2月から3月にかけては、原発差止訴訟で川内、伊方、高浜、美浜と負け判決が続いているという状況があります。こう考えると、何かとても絶望的になってしまうのですが、このままの状況が続いていくとは、私は決して思いません。草野さんに代わって裁判官になった高須順一さんは、町弁(主に地域住民の依頼を受ける弁護士)出身で、反骨や、長いものに巻かれない、を座右の銘にされているそうです。彼がどういう過程で、草野さんの後任として最高裁判事になったのか、私は知りません。一人の裁判官が代わったからといって、司法の反動性が変わるわけではないですが、やっぱり叫び続けると、何らかの形でこのように変わってくるということに確信を持っていいと、私は思います。
神田香織さん(講談師)
最高裁決定を新聞やテレビで見て、もう悔しくて悔しくて。今日は仲間に会いたいと駆け付けました。
私はいわき市の出身で、自分の故郷がこんなことになって本当に悔しいです。2001年から「チェルノブイリの祈り」という講談を語ってきて、日本で原発事故が起きては嫌だ、大変なことになると語ってきたのに。
実は3.11の前に、防災講談というものをやっていて、万が一、津波が来たら大変だから、私の講談をやってくれって、売り込みに行きました。そしたら、危機管理室の方に「香織さん、俺たちゃ危機管理しねっきゃなんねがら、そんなことやってらんねんで」と言われたんですね。いわき弁で。それから程なくして、あの大津波がやってきて、大勢の方が犠牲になりました。「何が起こるかわからない」これは東電の人たちも一番に考えなきゃいけない。考えることをせず、あれだけの事故を起こして誰も責任とらない。こんな馬鹿なことありますか。勝俣さん責任取らないで亡くなったんですよ。こんなこと許せますか。今、原発を再開しようとしてる。また原発事故が起きますよ。また責任取らない。
裁判所が空気を読むなら、社会通念を変えていく。映画にしたり、演劇やミュージカルで、歌で、本で、色んなことで世間に知らしめる。私も微々たる力ですが、講談で語ってつなげていきたいと思っております。
闘いは明るく楽しくしつっこく、あきれ果てても諦めないで参りましょう!
東電刑事裁判報告会のお知らせ
東電刑事裁判で東電元経営陣の刑事責任が認められなかったことは残念ですが、この裁判を通じて、闇に隠されていた多くの証拠、多くの事実を明らかにすることができました。
それは福島県内はじめ、全国の告訴・告発人の皆さんの、13年間の努力、ご支援がなした成果だと思います。
4月には東京で、5月には福島県郡山で報告会を開催しました。9月には3か所で報告会を開催します。お近くの方はぜひご参加ください。
オンラインでの報告会の開催も予定しています。詳細が決まりましたら改めてお知らせします。
福島原発事故・刑事裁判報告 金沢の集い
~東京電力旧経営陣が無罪でいいのか~
北陸報告会 9/13(土)13:30 ~ 16:00
- 佐藤 和良 福島原発刑事訴訟支援団 団長/福島県いわき市議
- 海渡 雄一 福島原発刑事訴訟 被害者代理人/弁護士
参加費:無料
申込:不要
問合せ:080-5565-7236(浅田:福島原発告訴団北陸支部)
主催:福島原発刑事訴訟支援団/福島原発告訴団北陸支部
後援:志賀原発を廃炉に!訴訟原告団/志賀原発株主差止め訴訟原告団
中四国報告会 9/20(土)14:00 ~ 16:30
- 佐藤 和良 福島原発刑事訴訟支援団 団長/福島県いわき市議
- 海渡 雄一 福島原発刑事訴訟 被害者代理人/弁護士
主催:福島原発刑事訴訟支援団/福島原発告訴団・中四国
問合せ:福島原発告訴団・中四国 090-7540-0332
関西報告会 9/21(日)13:30 ~ 16:00
- 佐藤 和良 福島原発刑事訴訟支援団 団長/福島県いわき市議
- 海渡 雄一 福島原発刑事訴訟 被害者代理人/弁護士
- 宇野 朗子 福島原発刑事訴訟支援団/福島から京都へ避難
- 報告 原発賠償訴訟・京都原告団
参加費:500円 高校生以下無料
主催/問合せ:福島原発告訴団関西支部 075-465-2451(佐伯)
後援:チェルノブイリ・フクシマ京都実行委員会/NPO法人 使い捨て時代を考える会/原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会/NPO法人 市民環境研究所
事務局からのお知らせとお願い
支援団の活動は、これからも続きます。みなさまの年会費・カンパで支えられています。2025年の会費の納入をよろしくお願いいたします。
- 年会費は一口1,000円、一口以上をお願いいたします。カンパも歓迎です。
- 振込用紙(手書きの払込取扱票)で納入される場合は必ずお名前・住所をご記入ください。
- ゆうちょ銀行の普通口座(通帳)からお振込み(窓口・ATM・ネットバンキング)をされる場合、その口座開設時のお名前・ご住所で通知されます。ご住所等に変更があった場合はその旨ご連絡ください。
- ゆうちょ銀行以外の金融機関からお振込みされる場合、こちらには口座名義人のお名前がカタカナで通知されます。間違い登録を防ぐため、お手数ですがメール等で入金のご連絡をいただけると助かります。
- 領収書が必要な場合はご連絡ください。メールの際は、件名を「領収書依頼」としてお送りください。
ゆうちょ銀⾏(郵便局)からお振込みの場合
郵便振替口座:02230-9-120291
福島原発刑事訴訟支援団
その他の⾦融機関からお振込みの場合
銀⾏名:ゆうちょ銀⾏
⾦融機関コード:9900
店番:229
預金種目:当座
店名:二二九(ニニキユウ)
口座番号:0120291
ニュースの名前「青空」は、強制起訴が決まった2015年7月31日の東京地裁の前で見た「どこまでも晴れわたった青空」から命名しました。表題は佐藤和良団長の書によります。
2025年8月11日発行
〒963-4316 福島県田村市船引町芦沢字小倉140-1
080−5739−7279
メール:info(アットマーク)shien-dan.org