福島原発刑事訴訟支援団ニュース第14号 青空

東京高裁は弁論を再開し、最高裁判決の証拠調べを行え!
公正判決署名を集めよう!
7.28上申書&署名提出行動、7.30福島集会に集まろう!
:佐藤和良

佐藤 和良(福島原発刑事訴訟支援団団長)

6月6日、東電刑事裁判の控訴審第3回公判が、東京高等裁判所第10刑事部(細田啓介裁判長)で開かれ、検察官役の指定弁護士は「過失責任を否定することは正義に反する」と強い言葉で無罪判決の破棄を訴え、結審しました。判決は、来春1月18日の14時から言い渡されます。

福島原発刑事訴訟支援団は、第2回公判で、現地検証と新たな証人調べを裁判長が「不採用」とし、第3回公判で結審するとしたため、4月15日から「一審判決を破棄し公正な判決を求める署名」を開始、第1次集約分12,140筆を5月20日に東京高裁に提出し、5月23日から6月3日まで、東京高裁前ランチタイムスタンディングで、「拙速な結審をしないで!審理を尽くして!」と訴えました。

また、弁護団は、5月11日、被害者参加代理人として、6月17日の国家賠償請求訴訟の最高裁判決と7月13日の東電株主代表訴訟の東京地裁判決を待ち内容を吟味すべきと「続行期日の指定」を求める「上申書」と「意見書」を提出しました。

第3回公判は、169人が傍聴整理券を求め、法廷には被害者遺族5人と武黒被告が出廷。最初に、被害者遺族の心情について、被害者参加代理人の大河弁護士が「高裁には私たちの悲しく悔しい気持ちを分かってほしい。寒がりだった父が、冷たい体育館の床の上のビニールシートの上で遺体となっていた、その心情を理解してほしい。東電は何も対策しなかった。どうして幹部が責任を問われないのか。」と意見陳述を代読しました。

指定弁護士は、新たに高裁で採用された証拠に基づき、長期評価の信頼性・具体性を否定した地裁判決の基本的な誤りを明確にする証拠だと述べ、千葉訴訟の高裁判決書などを説明。地裁判決は長期評価に信頼性がないことを前提に書かれたが、信頼性が認められれば根底から覆ると指摘し、神山指定弁護士は、地裁判決は事実誤認があり、高裁が被告人らの過失責任を否定することは正義に反する、と訴えました。

被害者参加代理人の海渡弁護士が「最高裁と東京地裁商事部で関連事件の判決で、本件の一審判決と異なる判断が示されたときは、弁論を再開して、これらの判決を証拠採用し、判決の資料としてください。」と発言。検察官役の石田指定弁護士も、「参加代理人の意見も踏まえて、書面を提出することになると思います」と発言、裁判長が「進行についての意見として受け取った」とし結審しました。

6月17日、福島原発事故の国家賠償請求訴訟で最高裁判決がでたことから、被害者参加代理人は、「最高裁判決は、結論としては国の責任を否定したものの、その理由では、本件刑事事件における東京地裁判決とは異なり、長期評価に信頼性があることを前提にした判示をしている。」「元検察官である三浦守判事による推本の長期評価には津波対策を基礎づける信頼性があり、国が津波対策を指示していれば事故の結果を回避できたとする少数意見も含まれている。」として、最高裁判決の判決書を証拠として取り調べるため、弁論再開を求め「続行期日の指定を求める上申書」を、6月23日、東京高裁に提出しました。

最高裁判決は、長期評価に基づいた東電の津波水位計算に従って津波対策を実施する前提で判断がなされ、長期評価に信頼性が認められることを前提にしていることから、東京高裁が東京地裁の判断をそのまま維持することはできなくなりました。

私たちはあきらめません。もう一踏ん張りしましょう!署名活動を継続します。

7月13日の東電株主代表訴訟の東京地裁判決を受け、東京高裁に弁論を再開し、証拠調べを求め、7月28日高裁へ上申書と署名提出行動を行います。7月30日には、弁論再開を求めて、福島県民集会を開きます。皆様の参加を訴えます。(2022年6月26日)


署名のご協力をありがとうございます!
引き続きご協力をお願いいたします!

「一審判決を破棄し公正な判決を求める署名」第一次署名12,140 筆を提出しました!

たくさんの署名を集めてくださり、ありがとうございました!
5月20日に東京高裁に第一次署名12,140筆を提出しました。
第二次提出は7月28日です。
署名は7月31日まで集めていますので、ぜひ引き続きのご協力をお願いいたします。
(第三次提出日は未定です)


最高裁判決多数意見は民訴法違反の違法判決であり下級審への拘束力はない
三浦意見こそが、あるべき最高裁判決である
:河合弘之・海渡雄一・甫守一樹・大河陽子

河合弘之・海渡雄一・甫守一樹・大河陽子(福島原発告訴団弁護団)

はじめに

最高裁第二小法廷は、令和4年6月17日、福島第一原発事故についての国の賠償責任を問う4つの事件について、「長期評価」に基づく予見可能性を暗黙の前提としつつも、「仮に、経済産業大臣が、本件長期評価を前提に、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による本件発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東京電力に義務付け、東京電力がその義務を履行したとしても、本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することは避けられなかった可能性が高く、…本件事故と同様の事故が発生するに至っていた可能性が相当にあるといわざるを得ない」(10頁)と判示し、結果回避可能性を否定して、本件事故についての国の責任を認めた仙台高裁判決、東京高裁判決及び高松高裁判決を破棄し、自判することによって国の責任を否定した。

多数意見も「長期評価」の信頼性を黙示的に認めざるを得なかった

最高裁判決の多数意見において正当な点は、「長期評価」の信頼性を黙示的に認めた点のみである。多数意見は民事訴訟法上、下級審の事実認定に拘束されるにもかかわらず、これを無視するという法令違反を犯し独自の事実認定をしている。単なる事実認定は法準則・法命題を示した「判例」ではなく、下級審裁判官に対する拘束力はまったくない。しかもそこまでして行った事実認定にも多数の事実誤認がある。

一方、検察官出身の最高裁判事である三浦守裁判官の反対意見は、関係法令の解釈、予見可能性及び結果回避可能性という主要な論点について網羅的かつ正当な見解を示した上、多数意見及び保安院の規制機関としての在り方について冷静な批判を加えている。三浦反対意見こそ、下級審の裁判官に対して模範を示す「真の最高裁判決」であるというべきである。

最高裁は下級審の事実認定に拘束される民訴法を無視した違法判決だ

多数意見は、「原審の適法に確定した事実関係等」の、「(7)本件事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策の在り方」として、「本件事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策は、…津波により上記敷地(引用者注:安全設備等が設置される原子炉施設の敷地)が浸水することが想定される場合には、防潮堤、防波堤等の構造物(以下「防潮堤等」という。)を設置することにより上記敷地への海水の浸入を防止することが対策の基本とされていた」(5頁)と判示した。同様の判示は各所で繰り返され(8、10頁)、多数意見において結果回避可能性を否定する主要な根拠として用いられている。

しかし、各原判決では、上記のように防潮堤等の設置を「対策の基本」とする事実認定はされていない。国の責任を認めた仙台高判、東京高判(千葉)及び高松高判はもとより、国の責任を否定した東京高判(前橋)でさえ、このような事実認定はなく、むしろ、水密化という、敷地の浸水を前提とする津波対策が十分あり得たことを前提とする判示をしている。

民事訴訟法321条1項に「原判決において適法に確定した事実は、上告裁判所を拘束する」とあるとおり、上告審は法律審であり事後審であるから、原判決が確定した事実を基礎としなければならないのであって、新たな事実認定をすることは許されていない(したがって新たな事実認定が必要となる訴えの変更、反訴の提起を上告審ですることはできない)。原判決の事実認定を逸脱した多数意見は、法321条1項に違反している。したがって、最高裁が民事訴訟法に反してまでして行った前記判示には、事例判断としても下級裁判所の裁判官が参照にできるような規範性はまったくない。

また、民事訴訟法318条1項は、上告受理申立て理由について、判例違反その他の法令の解釈に関する重要な事項に限定しているところ、前記仙台高判、同東京高判及び同高松高判について、各申立人国は、国賠法1条及び電気事業法40条の解釈の誤りを指摘し上告受理の申立てをしていた。しかしながら、多数意見は、前記仙台高裁等についてなんら法令の解釈の誤りを指摘していない。なぜ、上告を受理できたのか明らかにできておらず、最高裁が上告を受理したこと自体が、民事訴訟法違反である。

防潮堤等の設置を対策の基本とし、多重防護を否定した誤り

多数意見は、防潮堤等の設置を「津波による原子炉施設の事故を防ぐための措置として合理的で確実なもの」(10頁)と判示する。

しかしながら、津波は自然現象である上、その記録が少なく未解明な点も多いため、いかに余裕をもって津波を想定し防潮堤等で対策しても、これを超える津波が発生する可能性は否定できない。また、津波の波力や漂流物の評価式については未だ確立しているとはいえず、想定内の津波であっても防潮堤等が確実に機能する保障はない。 我が国でも敷地の浸水を前提とする防護措置の実績はあった。多数意見は、「本件事故前に、我が国における原子炉施設の主たる津波対策として、津波によって上記敷地(引用者注:安全設備等が設置された原子炉施設の敷地)が浸水することを前提とする防護の措置が採用された実績があったことはうかがわれず」(10頁)と判示する。

しかしながら、我が国の原子力発電所の津波対策としても、例えば、浜岡原子力発電所では設置当初から、敷地前面には巨大な砂丘が存在するにもかかわらず、原子炉建屋等に防水構造の防護扉が設置されている。福島第一・第二原発では、平成14年の「津波評価技術」の刊行に合わせて、4m盤の浸水を前提とするポンプ用モーターのかさ上げや熱交換器建屋等の水密化を実施している。日本原電は津波バックチェックに際して、平成20年6月までに東海第二原発及び敦賀原発について「津波影響のある全ての管理区域の建屋の外壁にて止水する」という基本方針を決定し、これを実行している。我が国の原子炉施設において、敷地が浸水することを前提とする防護の措置は本件事故前から幾つもの実績があったのであり、これを見落として防潮堤等の設置を津波対策の基本とした多数意見の事実認定が誤っていることは明らかである。

敷地を超える津波への対策についての指針等は存在しない

多数意見は、「当該防護の措置の在り方について、これを定めた法令等はもちろん、その指針となるような知見が存在していたこともうかがわれない」(10頁)と判示する。

そもそも我が国の原子炉施設は想定津波よりも十分高い地盤に設置することとされていたのであり、原子炉施設の敷地の浸水を前提とする防護措置のみならず、浸水を防ぐための防護措置(防潮堤等の設置)の在り方についても、法令等で定められておらず、指針となるような知見も存在していなかったはずである。敷地の浸水を前提とする津波対策のみ、法令等や指針となるような知見が存在しなかったかのように述べる多数意見は、無理に結論を導くため明らかに偏った判断をしている。

三浦反対意見では、「多数意見は、本件事故以前の津波対策について、津波により上記敷地の浸水が想定される場合、防潮堤等を設置することにより上記敷地への海水の浸入を防止することを基本とするものであったことを強調するが、このことを定めた法令はもとより、そのような指針が存在したわけでもなく、また、本件長期評価の公表以前に、防潮堤等の設置により上記敷地の浸水を防止することを前提として、原子炉の設置許可等がされた実績があったこともうかがわれない。それまでは、想定される遡上波が到達しない十分高い場所に上記原子炉施設が設置されることにより安全性が確保されているとして、津波による浸水が想定される場合の対策については、十分な検討がされていなかったというべきであろう」(44~45頁)、「このような試算(引用者注:明治三陸計算結果)は、本件事故以前には公表されなかったことがうかがわれ、そのような状況で、これを前提とする専門家等の具体的な議論が広く見られなかったとしても、それはむしろ当然のことであり、それが上記のような多重的な防護(引用者注:水密化等)の必要性等を否定する理由となるものではない」(47頁)という正当な指摘がなされている。これに対して、多数意見および多数意見にくみする補足意見において、的確な反論は見られない。

海外でも敷地が浸水することを前提とする溢水対策が一般的であったこと

多数意見は、「海外において当該防護(注:敷地が浸水することを前提とする防護)の措置が一般的に採用されていたこともうかがわれない」とも判示する。だが、台湾の金山原発においては津波対策として高台に緊急用のガスタービン電源2基が設置されている。JEAG4630-2016を見ても、ディアブロキャニオン(米)、グランドガルフ(米)、クーパー(米)、ルブレイエ(仏)、フォートカルホーン(米)といった原子炉施設において、敷地の浸水を前提とする外部溢水対策が実施されている。日本機械学会第12次海外調査団の報告書では、米国における溢水対策として、水密扉の活用が幅広く行われていることが報告されており、この記載からしても本件事故前から海外において敷地の浸水を前提とした津波対策が一般的に採用されていたことは十分にうかがわれる。

三浦反対意見でも、「その当時、国内及び国外の原子炉施設において、一定の水密化等の措置が講じられた実績があったことがうかがわれ、扉、開口部及び貫通口等について浸水を防止する技術的な知見が存在していたと考えられる」(44頁)という正当な意見が述べられている。この点についても、多数意見および多数意見にくみする補足意見において、的確な反論は見られない。

東電における津波対策の経過についての認識の誤り

多数意見は、「東京電力が本件試算津波と同じ規模の津波に対する対策等について検討した際に原審のいうような課題を指摘する意見が出されていたからといって、それだけで、東京電力が上記津波に対する対策を講ずることとなった場合に、上記津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置することを断念したであろうと推認することはできず、むしろ、上記防潮堤等の設置を実現する方策が更に検討されることとなった蓋然性が高い」と判示する。

まず、東電が平成20年7月31日までに工期や工費等について検討していたのは海中の防潮堤であるが、かかる防潮堤でも明治三陸計算結果による敷地への遡上を完全に防ぐことまでは想定されていなかった。その検討の際、吉田部長が「発電所だけを守ると周りに水がザブンと行ってしまうんだ」というような趣旨のことを発言し、以後は「モーターの水密化を指向する」こととなって、海中の防潮堤は検討が進んでいない。平成22年8月27日に開催された福島地点津波対策ワーキングでも、土木調査グループより、「土木側の対策として防潮堤の設置を検討していたが、『発電所設備は、守れても発電所周辺の一般家屋等に影響があるのは、好ましくない。』との社内上層部の意向があり、本検討は中断中。よって、上記の状況を踏まえると設備側での対応が必要」との報告がなされている。平成23年2月14日に開催された最後(第4回)の福島地点津波対策ワーキングでも、建築耐震グループから「R/BおよびT/Bにおいても、津波の遡上により浸水する可能性があることから対策の検討が必要。(D/G、非常用電源室、非常用ポンプ(ECCS)等に対する対策)」という報告がされており、東電が敷地の浸水を前提とする対策を検討していたことは明らかである。

このように、東電では、平成20年7月31日までの時点でもそれ以降でも、敷地の浸水を防ぐための防護措置を実現する方策のみが検討されていた訳ではない。多数意見はこのような東電における検討経過を正確に認定し、判断を加えることができていない。本件において、最高裁判決の事実認定及び判断を参照することは許されない。

防潮堤等だけでは不十分との考え方が有力であったことはうかがわれないとした誤り

多数意見は、「本件事故以前において、津波により安全設備等が設置された原子炉施設の敷地が浸水することが想定される場合に、想定される津波による上記敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置を講ずるだけでは対策として不十分であるとの考え方が有力であったことはうかがわれず」(8頁)と判示する。

しかしながら、前記のとおり、我が国の原子炉施設の津波対策は、安全設備等が設置される敷地を想定される津波の水位よりも十分高くすることが基本にあったため、敷地に浸水するような津波に対する対策が公に議論されたことはほとんどない。そのため、防潮堤等の設置で十分であるとの考え方が有力であった事実もない。

それでも、土木学会の津波評価部会の主査であった首藤伸夫氏は、想定を超える津波もあり得るという前提で、非常時に炉心を冷却するための設備が確実に機能するよう然るべき防水性を確保すべき旨繰り返し指摘していたことが認められ、これに反対する意見があった事実は特段認められないのであるから、防潮堤等の設置だけでは不十分であるとの考え方は十分有力であったといえる。

多数意見では法令の趣旨、目的を無視した判断がなされていること

多数意見では、経済産業大臣が規制権限を行使された場合、東電がどのような対策を現実的に選択した可能性があるかという点が強調されているように解されるが、本来議論されるべきであったのは、法令の趣旨、目的からして、東電がどのような対策を選択すべきであったかという点である。東電は、その設置、運転する原子炉施設について、深刻な事故が万が一にも生じないよう、万全の措置を講じる義務を負っていた一方で、敷地を超える津波はクリフエッジ事象であり特に電源設備が10m盤上に設置されたタービン建屋等の1階ないし地下1階に集中している本件原発では、10m盤を超える津波が安全性に多大な影響を及ぼすことは、本件事故前でも容易に想像できたはずである。加えて、大規模な防潮堤等の設置には長期間を要すること等からすれば、単に防潮堤等を設置するということで満足せず、多重防護の考え方に則り速やかに水密化等の津波対策を実施して、より万全を期すべきだったことは明らかである。

多数意見においては、原子炉施設における深刻な事故を万が一にも生じさせないことが原子力関係法令の趣旨、目的であるとの規範が欠けており、このことが、判決の誤った結論の根本原因と言える。

この点、三浦反対意見では、「…浸水の危険性は、いかにまれとはいえ、数多くの人の生命、身体等に重大な危害を及ぼすという現実の問題であり、取返しのつかない深刻な災害を確実に防止するという法令の趣旨に照らすと、津波による浸水を前提としない設計をそのまま維持することは、もはやその合理性を認め難いものであった。本件技術基準に従って講ずべき措置としては、単に、想定される津波を前提とした防潮堤等の設置で足りるということはできず、極めてまれな可能性であっても、本件敷地が津波により浸水する危険にも備えた多重的な防護について検討すべき状況にあったというべきである。そして、本件非常用電源設備は、主要建屋の1階又は地下1階に設置されており、本件敷地を浸水させる津波の襲来という単一の要因によって、その機能を全て喪失する危険性が高いことは明らかであり、その多重的な防護の必要性が特に高いものであった。これらの事情を総合すると、本件技術基準の適用に関し、上記水密化等の措置は、防潮堤等の設置が完了するまでの間において、本件非常用電源設備の機能を維持するために必要かつ適切な措置であるとともに、その後も、本件非常用電源設備の多重的な防護を図るものとして必要かつ適切な措置であったということができる」(46~47頁)という、正当な見解が述べられている。

敷地東側の全面の防潮堤の要否を曖昧にした誤り

多数意見は、「本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるものとして設計される防潮堤は、本件敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐことに主眼を置いたものとなる可能性が高く」(9頁)と判示するが、本件敷地の東側に防潮堤を造る想定なのか、造るとしてどの程度の高さにするのかについては明示していない。

一方で多数意見も、「一定の裕度を有するように設計されるであろうこと」は認めており、また、知見が不確実で高さの予測が困難な津波に対し、多重防護を否定して防潮堤等のみで津波による原子炉施設の事故を「確実」に防ぐというのであるから、本件敷地の東側にも相当な高さの防潮堤を造る想定でなければならない。本件敷地南東側の浸水を防ぐことに主眼を置いて、ここには高さ10m以上の防潮堤を造りつつ、同東側には高さ4~5m程度の防潮堤を造っていれば、建屋等の水密化等を実施していなくとも、全交流電源を喪失するような浸水は防げた可能性が高い。

多数意見は「本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することを防ぐことができるものにはならなかった可能性が高い」「本件事故と同様の事故が発生するに至っていた可能性が相当にある」と結論しているが、津波による原子炉施設の事故を「確実」に防ぐという程の裕度を有するよう設計するはずであるにもかかわらず、なぜ大量の海水の浸入を防ぐことができなかったという結論になるのかについては、具体的な理由付けを示しておらず、判断理由に不備がある。

他方で、三浦反対意見では、明治三陸計算結果では取水ポンプの位置において10m前後の津波が想定されたこと、明治三陸計算結果の各数値を絶対のものとみるべきではなく、相応の数値の幅を持つものと考えるのが相当であること、遡上波が本件敷地に到達すれば深刻な事態が生ずることは明らかであるから安全上の余裕を考慮した想定が必要であることを挙げ、「本件技術基準の適用に当たり、本件敷地の南東側からだけでなく、東側からも津波が遡上する可能性を想定することは、むしろ当然」として、「本件長期評価を前提に、経済産業大臣が技術基準適合命令を発した場合、東京電力としては、速やかに、本件敷地の東側からも津波が遡上しないよう、適切な防潮堤等を設置する措置を講じ、想定される遡上波が本件敷地に到達することを防止する必要があったものであり、その実施を妨げる事情もうかがわれず、それが実施された蓋然性が高い」(42頁)という妥当な見解を示している。

東京高裁は多数意見に惑わされることなく三浦意見にもとづいて被告人らの有罪を認めるべきだ

以上述べたように、三浦反対意見は、原子力発電に本来要請されていた安全性の程度を正確に理解したうえで、長期評価の信頼性を明確に認め、多数意見の事実誤認と規範的判断の欠如を冷静に指摘した正当なものである。原告らは、この意見こそが、本来最高裁が判示すべき内容だったと考える。

最高裁判決は全員一致ではなく3対1のスプリットデシジョン(接戦)である。最高裁における少数意見が、年を経て、多数意見に転ずる例は多い。最近では、非嫡出子の相続分について、長い間少数意見にとどまっていた意見が多数意見に転じた。

最高裁判決の多数意見が、原子力発電所に求められる安全性のレベルや予見可能性の論点には直接判断を示すことなく、結果回避可能性のみで国の責任を否定したことについては、すでに批判の声が数多く挙がってる。東京高裁はこの多数意見に惑わされることなく、三浦意見にもとづいて被告人らの有罪を認めるべきだ。


東京高裁前「ランチタイム・スタンディング」のご協力ありがとうございました!

5月23日から東京高裁前で9日間行った「ランチタイム・スタンディング」は、福島から、避難先から、近隣から交代で毎日人々が集まり、延べ296人が参加しました。

約1時間の間、代わる代わるマイクを握り、それぞれの言葉で思いを訴えました。ご参加くださった皆さん、ご支援くださった皆さん、本当にありがとうございました。想いのこもった良いアクションができたと思います。


弁論再開と最高裁判決等の証拠調べを求める!

■上申書&署名提出
■報告会

7月28日(木)

  • 10:00~10:30 東京高裁前アピール行動
  • 10:30       上申書・署名提出
  • 13:00~14:30 報告学習会
    • 会場:衆議院第1議員会館 多目的ホール
    • 報告:海渡雄一弁護士

7月30日(土)

  • 13:30~15:00 報告学習会
    • 会場:郡山教組会館(福島県郡山市桑野2-33-9)
    • 報告:海渡雄一弁護士、大河陽子弁護士


事務局からのお知らせとお願い

支援団の活動は、みなさまの年会費・カンパで支えられています。2022年の会費の納入をまだされていない方はお願いいたします。

  • 年会費は一口1,000円、一口以上をお願いいたします。カンパも歓迎です。
  • 振込用紙(手書きの払込取扱票)で納入される場合は必ずお名前・住所をご記入ください。
  • ゆうちょ銀行の普通口座(通帳)からお振込み(窓口・ATM・ネットバンキング)をされる場合、その口座開設時のお名前・ご住所で通知されます。ご住所等に変更があった場合はその旨ご連絡ください。
  • ゆうちょ銀行以外の金融機関からお振込みされる場合、こちらには口座名義人のお名前がカタカナで通知されます。間違い登録を防ぐため、お手数ですがメール等で入金のご連絡をいただけると助かります。
  • 領収書が必要な場合はご連絡ください。メールの際は、件名を「領収書依頼」としてお送りください。

ゆうちょ銀⾏(郵便局)からお振込みの場合

郵便振替口座:02230-9-120291
福島原発刑事訴訟支援団

その他の⾦融機関からお振込みの場合

銀⾏名:ゆうちょ銀⾏
⾦融機関コード:9900
店番:229
預金種目:当座
店名:二二九(ニニキユウ)
口座番号:0120291


ニュースの名前「青空」は、強制起訴が決まった2015年7月31日の東京地裁の前で見た「どこまでも晴れわたった青空」から命名しました。表題は佐藤和良団長の書によります。

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福島原発刑事訴訟支援団ニュース 第14号 青空
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