2017年1月29日に開催された「1日も早く裁判を!支援団結成1周年集会」にて、弁護士 海渡雄一が使用した刑事裁判の争点と見通し等についての資料です。
「東電役員の刑事責任追及の現段階と今後の課題」
何が明らかになり、これから何を明らかにしなければならないのか
2017年1月29日 弁護士 海渡雄一
(福島原発告訴団弁護団 東電株主代表訴訟弁護団 脱原発弁護団全国連絡会共同代表)
目次
はじめに
福島原発事故後の原発関連訴訟
- 被害にあった住民の東電や国に対する損害賠償訴訟
- 原発事故の刑事責任を明らかにするための刑事告訴
- 東電役員の民事責任を明らかにする株主代表訴訟
- 原発の再稼働をとめ、設置許可の取り消しなどを求める民事・行政訴訟
- 損害賠償の2017年の春から夏にはいくつかの判決が予定されている。株主代表訴訟は、主張の整理と文書提出命令の審理の段階である。
1.「2.29ついに起訴」
ついに検察官役弁護士による起訴!福島第一原発を襲った津波
起訴状の概要
- 福島第一原発事故、検察審査会から「起訴議決」を受けた東京電力の勝俣恒久元会長武藤栄(65)、武黒一郎(69)の両元副社長について、検察官役の指定弁護士が2月29日、業務上過失致死傷の罪で東京地裁に強制起訴した。
- 起訴状によると、被告人は原発の敷地の高さである10メートルを超える津波が襲来し、建屋が浸水して電源喪失が起き、爆発事故などが発生する可能性を事前に予測できたのに、防護措置などの対策をする義務を怠ったとされている。
非常用ディーゼル発電機(浜岡原発4号機)
原告は検証時に津波による水没を警告していた静岡地方裁判所検証調書より
検察審査会は東電会長・副社長の強制起訴を求めていた
- 2015年7月31日、東京第五検察審査会は、昨年7月31日に引き続き、2013年9月9日に東京地検が不起訴処分とした東電元幹部のうち、勝俣恒久元会長、武藤栄、武黒一郎の両元副社長について、業務上過失致死傷罪で強制起訴を求める議決を行っていた。
左から被疑者勝俣、武藤、武黒
起訴議決は政府事故調と検察の描いてきた構図を一変させた
- 議決の最大のポイントは2007年12月時点で、東電は推本の長期評価を取り入れる方針を決め、2009年6月には耐震バックチェックを終える計画であったとされたことだ。
- 2008年7月の武藤指示は、いったん決定されていた東電の社の方針を土木学会への検討依頼を口実に、全面転換し、早期に終えなくてはならないバックチェックを何年も先送りすることを意味していた。
告訴団の提起している事件は3つ
- 第一次告訴 東電の役員
- 武藤、武黒、勝俣
- 第二次告訴 保安院、東電幹部
- 保安院 森山、野口、名倉
- 東電 土木グループ 酒井、山形
- 汚染水告発
- 東電 広瀬直己社長ら旧・現幹部32人
2.津波対策を求める公的な見解
1997年には福島沖の津波地震の想定が政府から指示されていた
- 7つの省庁がまとめた津波想定方法
- 「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査」
- 日本海溝の津波地震を予測していた。
- 2014年7月に添田孝史氏(岩波新書『原発と大津波 警告を葬った人々』)の情報公開によって明らかになった。
2000年電事連報告では福島第一は日本一津波に脆弱であることが示されていた
- 電事連の「津波に関するプラント概略影響評価」(国会事故調参考資料編 41頁)は,平成9年(1997年)6月の通産省の指示に対応して,平成14年(2002年)2月に電事連内の総合部会に提出されたものである。
- 解析誤差を考慮して想定値の1.2倍,1.5倍,2倍の津波高さで原発がどう影響を受けるか調べ、全国の原発の中で,想定値の1.2倍で影響があるとされているのは福島第一と島根1,2号の二原発だけである。
警告されていた地震と津波による原発事故
- 2002年7月31日,推本の地震調査委員会により長期評価が公表された。
- これは,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでもMt(津波マグニチュード)8.2前後の津波地震が発生する可能性があるというものであった。
- 長期評価には,現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったが,過去の地震に関する資料が十分にない等の限界があることから、地震発生確率や予想される地震の規模の数値には誤差を含んでおり,十分留意する必要があると記載されていた。
2002年には,当時役員であった被告らは福島第一原発に10mを超える津波が襲う危険を予見することが可能だった
- 三陸沖から房総沖の日本海溝沿いで過去に大地震がなかった場所でもマグニチュード8クラスの地震が起き得るとの見解が公表
- 断層モデルの位置を福島県沖の海溝付近へ移動して計算を行えば良い。このような計算を行えば2002年の時点で,福島第一原発に10mを超える津波が襲う危険が察知されたはずである。
土木学会の津波評価技術は非科学的
- 2002年2月に土木学会の津波評価部会が公表した津波評価技術は,過去に発生した領域で繰り返し同じタイプの津波地震が発生するという考え方によっており,過去に津波地震の発生していない領域については考慮されていなかった。
- しかし、プレートはつながっており、福島沖だけが大地震を起こさないということは、テクトニクスの力学上もあり得ないことであった。
推本の評価を支持する見解の方が多数
- 2003年3月24日には,推本の地震調査委員会自体が,長期評価についての信頼度をA(高い),B(中程度),C(やや低い),D(低い)の4段階のランクのうちCと公表していた。
- 2004年5月に実施した地震学者への重みづけアンケート調査では,地震学者5名の回答結果の平均が,三陸沖から房総沖にかけての海溝寄りの津波地震の発生に関し,推本の長期評価に基づく考え方が約0.6,津波評価技術に基づく考え方が約0.4で,推本の長期評価に対する評価の方が上回っていた。
スマトラ津波によるマドラス原発被災
- 2004年末にはスマトラ島沖地震によるM9.5の巨大地震による大津波が発生し、プレート境界地震による津波の被害の深刻さを示した。
- インド南部のマドラス原発が大津波に襲われた。
3.津波対策の先送りの背景には耐震バックチェックの大幅先送りが隠されていた
2007年12月に、東電は、推本の長期評価を取り込むことに決めた
H27議決 10頁
耐震設計審査指針が改訂される
- 原子力安全委員会は、同年9月19日に「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(「新指針」)を決定した。そこでは、「地震随伴事象に対する考慮」として、津波について、「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」を「十分に考慮したうえで設計されなければならない」とされた。
既設原発の運転を認めながら新指針への適合を求めたバックチェック
- 保安院は、電力各社に対して既設原発について新指針に照らした安全性の評価を実施して報告を求める「耐震バックチェック」を指示した。
- 原子力安全委員会は、同日付で、このバックチェックの法的な位置づけについて、委員会決定を行い、新指針は、今後の安全審査等に用いることを第一義的な目的としており、指針類の改訂等がなされたからといって、既設の原子力施設の耐震設計方針に関する安全審査のやり直しを必要とするものではなく、許可を無効とするものでもない。既設の原子力施設に関する耐震安全性の確認は、あくまでも法令に基づく規制行為の外側で、事業者が自主的に実施すべき活動として位置づけられるべきであるとしてしまった。
- 原子力安全委員会は、保安院からの脅しに屈し、自らの制定した新指針が既設炉を拘束するものであることを自ら否定してしまったと評価できる。
保安院は「不作為」を問われる可能性があると考えていた
- しかし、保安院は同じ2006年9月13日に,保安院の青山伸,佐藤均,阿部清治の3人の審議官らが出席して開かれた安全情報検討会では,津波問題の緊急度及び重要度について「我が国の全プラントで対策状況を確認する。必要ならば対策を立てるように指示する。そうでないと「不作為」を問われる可能性がある。」と報告されていた(第54回安全情報検討会資料)。
- 保安院によって対策が指示されていれば,事故は防ぐことができた。しかし、対策はとられず、東電など電事連の圧力に保安院が屈していた。
2009年には完了する予定であった耐震バックチェック作業
- 当時の原子力安全委員会の事務局で審査指針課長を務めていた水間英城氏は2015年1月のインタビューで、耐震指針の策定中であった2005年頃に、保安院と電力会社の担当者を集めて、「事務的打ち合わせ」を開き、「電力各社に対し水間氏は「3年以内 (13カ月に1回行う定期検査2回以内)でパックチェックを終えてほしい。それでダメなら原子炉を停止して,再審査)と,強く求めたという。
- 水間氏は,バックチェックの実務を担う保安院の佐藤均原子力安全審査課長らにも念を押したという。」
- このような方針が貫かれて、保安院によって対策が指示され、2009年までに耐震バックチェック作業(津波対策を含む)が完了していれば、事故は防ぐことができた。
原子力安全委員会審査指針課長 水間英城氏の発言
- 「「耳をそろえて3年以内に」と言った。(電力会社は)耐震指針検討分科会の議論も見ていたのだから,常識的にそれぐらいでできるだろうと。現に(2006年)9月20日の(保安院)指示文書を受けて電力が10月に出した計画では. 3年以内に終えることになっていた」
- 「とにかく補強して下駄をはかせれば(改定指針の諸要求を満たすという状態ならオーケー。原許可(原発建設時の国の許可)は変えなくていい。ただし3年経ってもパックチェックを完了しない状態であれば伊方判決の『原許可取り消し』があるから駄目だよと。パックチェックは(原発の耐震安全性を問う)実力勝負だから」
- (雑誌「科学」2015年12月号に掲載された共同通信社記者の鎭目宰司記者による「漂流する責任:原子力発電をめぐる力学を追う(上) 」より)
2007年中越沖地震を教訓にできなかった。
- 2007年には中越沖地震に見舞われた柏崎原発では想定を大幅に上回る地震動により、3000カ所の故障が生じた。
- 地下水による地下の浸水なども起きていた。
- 想定を超える地震・津波にも備えなければと教訓にすべきだった。
- しかし、東電は、想定を超えても、大事にならなかったと慢心した。
福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できない
- 2007年12月には,東電は、耐震バックチェックにおいて,長期評価を取り込む方針で津波対策を進めることになった。
- 東電は、2008年2月26日,今村文彦教授から,「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できないので,波源として考慮すべきである」旨の指摘を受けた。
15.7メートルの試算は対策の内容を詰めるための準備であった
- 2008年3月18日には,東電設計から,推本の長期評価を用い,明治三陸沖地震の津波の波源モデルを福島県沖梅溝沿いに設定した場合の津波水位の最大値が敷地南部でO.P.+15.7メートルとなる旨の試算結果が出された。
- これは,福島第一原発の当時の想定津波水位であるO.P.+,5.4メートル~5.7メートルを大幅に超えるものであり,このような津波が発生すれば,福島第一原発のタービン建屋の設置された10m盤を大きく超えて浸水してしまうことは明らかであった。
2008.3 東京電力が依頼し、東電設計が行った津波シミュレーション
(株主代表訴訟東電準備書面11)
耐震バックチェック最終報告で推本の長期評価を考慮することは決定されていた
- 2008年3月20日に実施された東京電力の地震対応打合せでは,耐震バックチェックの中間報告書の提出に伴うプレス発表に関して作成された想定問答集が報告された。
- 津波評価に関して充実した記述が指示され,同月29日に実施された東京電力の地震対応打合せでは,耐震バックチェックの最終報告において推本の長期評価を考慮する旨が記載された修正済みの想定問答集が報告され,了承された。
2008.6武藤らは、試算結果を受け、10メートルの防潮堤建設など具体的津波対策の検討を指示
- 平成20年6月10日,土木調査グルーフの担当者は,被告武藤栄副社長(当時)に対し,資料を示しながら,推本の長期評価を用いた,明治三陸沖地震の津波の波源モデルを福島県沖梅溝沿いに設定した場合の津波水位の最大値である,敷地南部O.P.+15.7メートルの試算結果を報告し,合わせて,原子炉建屋等を津波から守るために敷地上に防潮堤を設置する場合には,O.P.+10メートルの敷地上に約10メートルの防潮堤を設置する必要があること等を説明した。
- 武藤副社長(当時)は非常用海水ポンプが設置されている4m盤(O.P.+4メートルの地盤)への津波の遡上高を低減する方法、沖合防波堤設置のための許認可など、機器の対策の検討を指示した。
2008.7土木学会への検討依頼は耐震バックチェックの長期先送りを意味した
- 2008年7月31日には,武藤栄副社長(当時)は、土木調査グループに対し,これまでの方針を変更し,耐震バックチェックにおいては推本の長期評価は取り入れず,津波評価技術に基づいて実施するよう指示した。
- この方針転換こそが、事故の直接的な原因である。
- 推本の長期評価については土木学会の検討に委ねることとし,その方針について津波評価部会の委員や保安院の理解を得ること等が指示され,2008年10月には,それらの了解をおおむね得ることができた。
- その結果,耐震バックチェックの最終報告をする予定であった2009年6月の期日は延期されることとなった。
4.株主代表訴訟で明らかにされた役員の重過失を証明する東電内部資料
電力会社の高い注意義務を認めた
- 「一度事故が起きると被害は甚大で、その影響は極めて長期に及ぶため、原子力発電を事業とする会社の取締役らは、安全性の確保のために極めて高度な注意義務を負っている。」伊方判決を引用。
- 「そもそも自然災害はいつ、どこで、どのような規模で発生するかを確実に予測できるものではない」事故以前に、基準地震動を超える地震動が観測されていることを指摘。
- 「根拠のある予測結果に対しては常に謙虚に対応すべきであるし、想定外の事態も起こりうることを前提とした対策を検討しておくべきものである」
土木学会への検討依頼は時間稼ぎと断定
- 東電は、推本の予測に基づいて行った数々の津波の試算についても、現実に起きるとは思わなかった、念のために土木学会に検討を依頼しただけであるなどと言い訳していた。しかし、土木学会は電力で固めた言いなり組織であった。検察は不合理ないいわけをそのまま認めてしまっていた。
- しかし、検察審査会は、第一次議決において、市民的良識を発揮し、東電の役員たちは、対策が必要であることはわかっていて、途中まではその検討や準備もしたのに、改良工事のために原発が長期停止になることをおそれ、時間稼ぎのために土木学会に検討を依頼して、問題の先送りをしたと認定した。
- 事態を正確に理解した、極めて正しい認識だ。
2008年9月10日「耐震バックチェック説明会(福島第一)議事メモ」
- このことを示す証拠が東電株主代表訴訟において、裁判所の勧告によって、東電から提出された。
- 1枚目議事概要の中に,「津波に対する検討状況(機微情報のため資料は回収,議事メモには記載しない)」とある。
- 文字通り、津波問題こそ、最大の機微問題であったこととなる。
- その「回収」された資料には何が書かれていたか。
福島第一原子力発電所津波評価の概要(地震調査研究推進本部の知見の取扱)
- これが回収された資料である。
- その2枚目の下段右側に,「今後の予定」として,以下の記載がある。
- 「推本がどこでもおきるとした領域に設定する波源モデルについて,今後2~3年間かけて電共研で検討することとし,「原子力発電所の津波評価技術」の改訂予定。
- 電共研の実施について各社了解後,速やかに学識経験者への推本の知見の取扱について説明・折衝を行う。
推本の見解を否定することは困難 津波対策は不可避
- 改訂された「原子力発電所の津波評価技術」によりバックチェック を実施。
- ただし,地震及び津波に関する学識経験者のこれまでの見解及び推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると,現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され,津波対策は不可避。」
- 結局のところ土木学会への検討依頼は不可避の対策を先送りするものでしかないことをこの文書は自白している。会議後に回収する予定で作成された文書であるから東電幹部らの本音が示されたものとして決定的に重要である。
この認識は東電の最高幹部に共有されていたか
- 「耐震バックチェック説明会(福島第一)」には、東京電力の福島第一の小森所長と本店の氏名不詳の幹部らしか出席していない。
- しかし、会議後に機微情報として回収された最重要情報に示された認識は、会社の最高幹部に直ちに知らされ、共有されたことは東電の会社体質からして明らかである。
- このことは、勝俣社長以下の幹部が出席した2009年2月の中越沖地震対応打ち合わせの次の記述からも裏付けられる。
2009年2月11日「福島サイト耐震安全性評価に関する状況」
- 資料6頁〈参考〉耐震安全性評価報告書の構成(一般的構成)の表の枠外に,次のような手書きのメモがある。
- 「地震随伴事象(津波)」の部分について
- 「問題あり」
- 「出せない」
- 「(注目されている)」
津波対策は「問題あり」「出せない」「(注目されている)」
- この会議では,福島第一原発,第二原発の耐震バックチェックに関して,津波問題を主に議論がなされていたことが判明している。
- この書き込み部分も,この会議における誰かの発言であると考えられる。
- このメモによると,当時福島原発に関しては津波について「問題あり」「出せない」「(注目されている)」という状況であったこと、津波対策をとらなければならない状況となっていることを東電が必死に隠蔽しようとしていたことがわかる。
2009年2月11日 中越沖地震対応打ち合わせメモ1
- 原子力設備管理部長の発言として,以下の記載がある。
- 「土木学会評価でかさ上げが必要となるのは,1F5,6のRHRSポンプのみであるが,土木学会評価手法の使い方を良く考えて説明しなければならない。もっと大きな14m程度の津波がくる可能性があるという人もいて,前提条件となる津波をどう考えるかそこから整理する必要がある」
- 武黒本部長が「女川や東海はどうなっているのか」と聞いたのに対して,「女川はもともと高い位置に設置されており,東海は改造を検討中である。浜岡は以前改造しており,当社と東海の問題になっている」と担当者は応えている。
2009年2月11日 中越沖地震対応打ち合わせメモ2
- 清水社長の発言「バックチェックと耐震強化工事を並行でやっているという姿は見せなければならないのではないか」
- この発言の意味は、次のように理解すべきであろう。
- バックチェックの完了時までに耐震補強・津波対策を完了できないことがはっきりとしてくる中で,ポーズだけを取って,耐震補強・津波対策が完了しなくても,運転を続けていくことができるように求めるという意味に受け取れる。
勝俣氏の言い訳は信用できない
- 勝俣氏は、一連の経過について説明を受けていないと言い訳している。
- しかし、地震対応打合せは,被疑者勝俣への説明を行う「御前会議」とも言われていた。
- 津波対策は数百億円以上の規模の費用がかかる可能性があり,最高責任者である被疑者勝俣に説明しないことは考えられない
- 2009年6月開催の株主総会の資料には,「巨大津波に関する新知見」が記載されていた。
- したがって、その言い訳は信用できないとした。
福島第一のバックチェックの最高の難問は、津波対策であった
- 武藤、武黒、勝俣ら東電幹部らは、いずれ推本の見解に基づく対策が不可避であることを完全に認識していた。
- しかし、老朽化し、まもなく寿命を迎える1,2号炉を含む原子炉の対策のために多額の費用の掛かる工事を決断することができなかった。そして、不可避の対策を遅らせることを目的に身内の土木学会へ検討依頼を行った。
このことが外部に漏れることを警戒し、所内の会議でも、津波対策に関する書類は会議後に回収するという徹底した情報の隠蔽工作がなされていたことがわかる。 - 東京電力幹部の過失を超えた故意に等しいものであり、その民事・刑事責任は明白である。
5.政府事故調調書などによって明らかになった貞観の津波をめぐる保安院と東電の暗闘
貞観の津波をめぐる保安院と東電の暗闘
- 2008年10月 佐竹健治・東大教授が東電に最新の論文を渡す
- 2008年11月 東電の担当者は、貞観津波の計算水位が8.6m~9.2m(土木学会手法では+3割程度、すなわち敷地高さ超え)になることを知る
- 貞観の津波の津波堆積物の調査が進み、2009年にはこの問題が耐震バックチェック会議で岡村行信委員から指摘された。
- しかし、名倉審査官は最終報告に盛り込むとして、問題を先送りした。
「津波にかかわるとクビになるよ」
- 2009年9月 東電が上記の試算結果を保安院に説明
- この説明会に小林は欠席している。
- 小林勝・原子力規制庁安全規制管理官(事故当時、保安院耐震安全審査室長)の政府事故調調査には次のやり取りが記録されている。
小林「ちゃんと議論しないとまずい」
野口・審査課長「保安院と原子力安全委の上層部が手を握っているから余計なことするな」
原・広報課長「あまり関わるとクビになるよ」
2010年3月24日午後8時6分保安院森山善範審議官が,原子力発電安全審査課長らに送ったメール
- 1F3の耐震バックチェックでは,貞観の地震による津波評価が最大の不確定要素である
- 貞観の地震は福島に対する影響は大きいと思われる。
- 福島は,敷地があまり高くなく,もともと津波に対して注意が必要な地点だが,貞観の地震は敷地高を大きく超える恐れがある。
- 津波の問題に議論が発展すると,厳しい結果が予想されるので評価にかなりの時間を要する可能性は高く,また,結果的に対策が必要になる可能性も十二分にある。
- 東電は役員クラスも貞観の地震による津波は認識している。
- というわけで,バックチェックの評価をやれと言われても,何が起こるかわかりませんよ,という趣旨のことを伝えておきました
東京電力の国への報告は地震の4日前だった
- 東京電力の役員はこのシミュレーション結果を政府に提出せず、隠した。
- 2010年11月文部科学省の地震調査研究推進本部が「活断層の長期評価手法(暫定版)」を公表したことを契機として,保安院は、東京電力に対し,津波対策の現状についての説明を要請した。
- 2011年3月7日東京電力は、15.7メートルシミュレーション結果を国に報告した。
- 2002年の地震調査研究推進本部の長期評価に対応し、明治三陸地震が福島沖で発生した場合、13.7m~15.7mの津波が襲うという内容だった。
震災4日前の「お打ち合わせ用」資料
東電は、土木学会の見解によっても、少なくとも13.6mの高さの津波に備えなければならなくなることは覚悟していた。
対策が遅いと指摘した保安院小林審査官
- 小林勝は,2011年3月7日に,このシミュレーションの報告が東電から保安院に対してなされた際に,次のように警告した。
- 土木学会の津波評価技術の改訂に合わせるという東電の方針に対して「それでは遅いのではないか。土木学会による津波評価技術の改訂に合わせるのではなく,もっと早く対策工事をやらないとだめだ」「このままだと,推進本部が地震長期評価を改訂した際に,対外的に説明を求められる状況になってしまう。」とコメントしたという。
- しかし、遅すぎた警告であった。
津波想定は事故後も隠された
- 2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震 津波の浸水高はO.P.約+11.5~15.5mであった。
- なお、本件事故発生後8月まで、この3月7日の報告は国・保安院によって秘匿された。
- 東京電力は本件事故は3月13日の清水社長会見以来事故は「想定外の津波」を原因とするものであり、東京電力には法的責任がないとの主張が繰り返した。
- これを明らかにしたのは、読売新聞のスクープであった。
6.東電の実務担当者と保安院担当について
福島原発告訴団第二次津波告訴
- 添田孝史「原発と大津波-警告を葬った人々」と政府事故調の調書の一部公開情報をもとに、東電や経済産業省旧原子力安全・保安院、電事連、原子力安全委員会の当時の幹部らについて東京地検に追加告訴した。
- 検察不起訴に対して検察審査会は、2016年4月東電関係者の予見可能性は認めたが、保安院関係者には予見可能性もないとした。
- そして、いずれも結果回避の可能性がないとして不起訴相当とした。
東電の被告訴人ら
- 酒井俊朗 東電の津波対策の責任者・マイアミレポートの作成者・土木学会委員
- 高尾誠 東電の津波対策のサブ責任者・土木学会幹事
2008年-2009年当時の保安院担当幹部
- 森山善範 保安院原子力発電安全審査課長,ついで保安院審議官
- 名倉繁樹 保安院原子力発電安全審査課審査官 2008年-2009年
- 野口哲男 保安院原子力発電安全審査課長 (2008年-2009年)
検察審査会不起訴相当決定が明らかにした新たな事実
- 1 5 . 7メートルという解析結果を受けて、高尾は,酒井の指示を受けて,東電設計株式会社に対して,原子炉建屋等が設置された敷地に対する津波の遡上を防ぐため,敷地にどの程度の高さの防潮堤を設置する必要があるかに関する解析を依頼
- 2008年4月,東電設計株式会社から,1 0 メートルの高さの敷地上に,さらに約10メートルの防潮堤を設置する必要があるとの解析結果を得た。
- この結果について,4月,高尾の部下は,土木調査グループが,機器耐震技術グループや建築グループなどの関係グループと打ち合わせする際に伝えている。
- 高尾は,東電設計に対して,同年5月,敷地上の防潮堤の設置以外の方法により津波の影響を低減する方策の検討を依頼した。
推本の長期評価を取り上げるべき理由を説明
- 酒井と高尾が,6月2日,それまでの検討状況を,吉田原子力設備管理部長に報告
- 吉田「私では判断できないから,武藤さんにあげよう」旨の発言があり,武藤栄原子力・立地本部副本部長に報告することになった。
- 6月10日の会議,酒井と同高尾は,武藤副本部長に対して,土木調査グループとしては,耐震バックチェックにおいて,推本の長期評価を取り上げるべき理由や,対策工事に関するこれまでの検討結果等を報告したが,その場では結論は示されず,次回までの検討課題が示された。
建設費は数百億円規模
- 7月31日の会議において,酒井と高尾から,武藤副本部長に対して、防波堤等の建設費が数百億円規模になること,沖合の防波堤の設置に伴って許認可等が必要となることから,設置工事の意思決定から工事完了までに約4年を要し,環境影響評価が必要な場合にはさらに約3年を要することなどを報告した。
- 最終的に,武藤副本部長は,「福島県沖海溝沿いでどのような波源を考慮すべきかについて少し時間をかけて土木学会に検討してもらう」「当面の耐震バックチェックについては,従来の土木学会の津波評価技術に基づいて行う」「これらの方針について専門家に相談する」という方針が示された。酒井と高尾は,その方針を受け入れた。
7.検察審査会の強制起訴決定をもたらした事実と論理
電力会社の高い注意義務を認めた
- 第二次議決においても、原子力発電に関わる責任ある地位にある者であれば,一般的には,万がーにも重大で過酷な原発事故を発生させてはならず,本件事故当時においても,重大事故を発生させる可能性のある津波が「万が一」にも,「まれではあるが」発生する場合があるということまで考慮して,備えておかなければならない高度な注意義務を負っていたというべきである。
- その設計においては,当初の想定を大きく上回る災害が発生する可能性があることまで考えて,「万がーにも」,「まれではあるが」津波,災害が発生する場合までを考慮して,備えておかなければならない。
長期評価は決して無視できない
- 「大規模地震の発生について推本の長期評価は一定程度の可能性を示していることは極めて重く,決して無視することができないと考える。」
- そして、チェルノブイリ事故では数十キロメートル以上の地域が放射能で汚染され長い期間そこには何人も出入りすることができなくなってしまう。加えて,放射能が人体に及ぼす多大なる悪影響は,人類の種の保存にも危険を及ぼす。
- 原発事故は,ひとたび発生してしまうと事故が発生する以前の状態を取り戻すことが非常に困難で,取り返しのつかない極めて重大な事故である。
- 原発事故の本質を捉えた的確な議決である。
いったん決めた津波対策を反故にしたことが事故の原因である
- 長期評価に基づいて津波対策を執ることがいったん東電の社の方針として決定されていた。
- このいったん決定されていた社の方針を覆したことが事故の原因である。
- この方針転換を主導したのは武藤、これを追認したのが武黒であり、二人の事故の具体的な予見可能性と回避可能性は、決定的に明らかになった。
原子炉が浸水すれば致命的であることはわかっていた
- 91年10月30日の福島第一原発において海水の漏えい事故、2007年7月に発生した新潟県中越沖地震における,柏崎刈羽原発1号機の消火用配管の破裂による建屋内への浸水事故、1999年12月のフランスのルブレイエ原子力発電所の浸水事故,2004年12月のスマトラ島沖地震の津波によるマドラス原子力発電所2号機の非常用海水ポンプが水没する事故
- 2006年5月第3回溢水勉強会では,福島第一原発5号機において敷地高を1メートル超える高さ(0.P.+14メートル)の津波が無制限に襲来した場合には,非常用電源設備や各種非常用冷却設備が水没して機能喪失し,全電源喪失に至る危険性があることが明らかとなったとしている。
8.世紀の裁判で裁かれるのは、東電・保安院そして原子力ムラに取り込まれた検察庁
原子力ムラの情報隠蔽を打ち破ってきた私たちの闘い
- 福島原発事故に関してはたくさんの事柄が隠されてきた。
- この議決の根拠となった東電と国による津波対策の方針転換に関する情報の多くは2011年夏には検察庁と政府事故調の手にあったはずである。
- この隠蔽を打ち破ったのが、今回の検察審査会の強制起訴の議決であり、株主代表訴訟における証拠の開示である。
告訴団の事故の真実を明らかにし、責任を問う真摯な態度が検審の委員の心を揺り動かした
- 東電を中心とする原子力ムラや検察からの圧力のもとで検審の委員11人のうちの8人の起訴議決への賛同を得た。
- 原発事故で人生を根本から変えられた福島の人々の切実な思いが東京の市民にも伝わったのである。
- 今回の強制起訴は奇跡のように貴重なものだ。
政府事故調と検察が真実を隠ぺいしたことはもうひとつの事件である
- これらの情報は徹底的に隠された。それはなぜだったのか。考えられる推測はただひとつである。
- 原子力推進の国策を傷つけるような事実は、隠ぺいするしかないと、政府事故調と検察のトップは決断したのだろう。
- このことは、福島原発事故そのものに匹敵するほどの、行政と司法と検察をゆるがせる「もう一つ」の福島原発事故真相隠ぺい事件である。
指定弁護士チームは最強
- 起訴により、今後開かれる公開の法廷において、福島原発事故に関して隠されてきた事実を明らかにする作業が可能となった。
- 第二東京弁護士会の推薦を受け、東京地裁は石田省三郎、神山啓史、山内久光ほかを検察官役に指定した。
- 石田・神山コンビは無実のゴビンダさんの再審無罪を実現した刑事弁護のプロである
- 望みうる最高の刑事弁護士が検察官役に選任され、検察官役の体制は整った。
9.今後の予測と課題
刑事裁判について予測される手続き展開
- 起訴後、公判前整理手続きが実施されている。
- しかし、検察官役は、すべての証拠を被告人側に渡した。これにより、証拠開示のための公判前整理は不要となり、争点整理のための手続きが続いている。
- 告訴団は被害者代理人として手続き参加を申し立て、認められた。
- 検察官役の弁護士たちは、東電の内部資料、政府事故調の調書等を見ることができる。
- 裁判所に提出された証拠は、我々にも、開示される。
事実と法的な争点
- 第一次議決の際には、過失責任を巡る具体的危険説と危惧感説の対立構造になると言う見方もあり、通説と異なる法的見解は裁判所には受け入れにくいという見方もされていた。
- しかし、第二次議決の認定した事実関係を前提とする限り、本件は何も法的には難しい点のない、普通の業務上過失事件である。
- 東電役員は災害の結果を具体的に予見し、対策まで検討しながら、対策のコストと原子炉運転停止のリスクという経済的な理由から、いったんやると決めていた方針を転換し、対策を先送りしたのである。
最重要の争点
- したがって、法的な争点よりも事実に関する争点が重要である。
- とりわけ2007年に福島沖の大地震を想定して津波対策を講ずる方針が決まっていたかどうか
- 2008年3月15.7メートルのシミュレーションの意味
- 2008年3月のQA集の意味
- 2008年6月に防潮堤など対策が現実に検討されたかなどが決定的に重要な争点となる。
残された未解明点
- 保安院の役割を解明すること、すなわち2006年には3年以内に津波対策を含めて耐震バックチェックを完了させる方針であったのに、これが骨抜きにされていった経過を明らかにする必要がある。
- また、これと関連するが、東電の1F3のプルサーマル計画との関連も解明しなければならない。
- QA集は福島県に対する説明などのために作成されたものと考えられるが、福島県は、プルサーマルの実施は耐震性の確保が前提としてきたが、耐震性の確保から津波対策が除かれた経緯を明らかにしなければならない。
市民の力で真相を解明し、勝訴判決と有罪判決を勝ち取りたい
- 次の事故調査が難しくなるから、文書の提出は命じられないとか、刑事責任追及は間違いという議論は筋違い
- 次の事故を起こしてはならないはず。そのためにも、事故原因の徹底解明こそが求められている。
- 政府事故調は真相を隠したではないか
- 政府事故調調書の公開も大きな力となった
- 有罪は難しいというすさまじいマスメディアのキャンペーン
- ふたつの民事・刑事裁判を支える市民のネットワークが必要