目次
第2回公判、証人尋問に全国から集まろう!
「厳正な判決を求める署名」を広げよう!
福島原発刑事訴訟支援団のみなさま
謹んで新年のお慶びを申し上げます。昨年は、たくさんの励ましとお力添えを頂き、ほんとうにありがとうございました。
今年3月11日には、東日本大震災、福島原発事故から丸7年を迎えます。福島第一原発に出された政府の原子力緊急事態宣言は、未だに解除されていませんが、政府による強引な帰還政策や偏った復興施策によって、事故の風化と被害者、被災者の不合理な分断が進行しています。避難住宅提供の打切り、甲状腺がんの多発など人々の困難は深まっています。
昨年は、日本最大の公害事件、全世界が注目する、待望の東電福島原発事故の刑事裁判、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3被告の第1回公判が開かれました。
東京地裁104号法廷での第1回公判に出廷した、東電旧経営陣の勝俣、武黒、武藤の3被告は、無念の最期を迎えた、被害者である双葉病院の患者の遺族の皆さんが見守る前で、「予見は不可能で刑事責任は適用されない」と事故の予見可能性、結果回避可能性を否定し、無罪を主張したのです。
しかし、検察官役の指定弁護士は「被告人らは、原子力発電所を設置する事業者である東京電力の最高経営層として、原子炉の安全性を損なうおそれがあると判断した上、防護措置その他の適切な措置を講じるなど、原子力発電所の安全を確保すべき義務と責任を負っていた。『適切な措置』を講じるか、それができなければ、速やかに原子力発電所の運転を停止すべきであった。それにもかかわらず、被告人らは、何らの具体的措置を講じることなく、漫然と原子力発電所の運転を継続した。被告人らが、費用と労力を惜しまず、課せられた義務と責任を適切に果たしていれば、本件のような深刻な事故は起きなかったのである」と冒頭陳述で指摘しました。
東電が大津波を予測し防潮堤など津波対策に取り掛かっていたこと、武藤被告らが経営判断でこれを中止した経緯などが、当時の会議記録メモや社内メール、東電設計の解析報告書などの証拠によって示され、事故の予見可能性と結果回避可能性、3被告の刑事責任を明確にしたのです。
第2回公判は、1月26日10時から開かれることとなりました。1月以降は検察官役の指定弁護士が請求した証人への質問が相次いで行われる予定といわれます。人数は合わせて14人に上り、審理は長期化する見通しとされ、証人は、当時、東京電力社内で津波対策を検討していた土木グループ社員や東京電力の事故調査報告書を取りまとめた社員、それに津波のメカニズムに詳しい大学教授などとされています。
私たちは、1月26日第2回公判での証人尋問の傍聴を呼びかけます。全国から参加して公判内容を国内外に発信していきましょう。真の被害者救済の道を開くために、事故原因の究明、旧経営陣3被告の有罪を求め、東京地裁が公正な訴訟指揮を行い、厳正な判決を下すよう求めていきます。どうぞ、東京電力福島原発刑事訴訟「厳正な判決を求める署名」を一人でも多くの方に広めてください。
今年も一緒に手をつないで一歩一歩前へ進みましょう。どうか、よろしくお願い申し上げます。
2018年1月 福島原発刑事訴訟支援団
佐藤 和良
ついに始まった刑事公判
厚い証拠で証明された東電幹部の刑事責任(後編)
海渡 雄一(福島原発告訴団弁護団)
2009年6月 津波対策を含むバックチェック完了を約束した中間報告発表
平成20(2008)年3月31日、東京電力は、原子力安全、保安院に対して、福島原発5号機に関する耐震バックチェック中間報告を提出し、同時に福島県とプレスにも発表しました。この中間報告では、津波に対する安全性には触れられていませんでした。
同日に、被告人武藤も出席して、福島県に対して「耐震バックチェック中間報告」の説明を行い、「津波の評価については、最終報告にて行う、最新の知見を踏まえて安全性の評価を行う」ことを確約しました。
被告人武藤は、マスコミからの質問に対し、「地質評価結果は7月までにまとめたい。バックチェックの最終報告は、2F(福島第二原子力発電所)がH21年3月、1F(福島第一原子力発電所)がH21年6月までにしたい。」と答えています。つまり、平成21(2009)年6月までに津波対策を完了させ、バックチェックを終了することが、この時点での東電の方針であったことがわかります。
10メートル盤に10メートルの防潮堤を敷地東側に南北に築く計画図面が示された
これを受けて、東電の実務レベルの担当者は東電設計とも協力して、10メートル盤の上に10メートルの津波防潮堤を、敷地の南北に築く計画を始めとして、具体的な計画を煮詰め、平成20(2008)年4月には防潮堤の計画もまとめられました。
これを受けて、同年4月18日、東電設計は東京電力に対し「10m盤の敷地上に1号機から4号機の原子炉・タービン建屋につき、敷地南側側面だけでなく、南側側面から東側全面を囲うように10メートル(O.P.+20m)の防潮堤(鉛直壁)を設置すべきこと、5号機及び6号機の原子炉・タービン建屋を東側全面から北側側面を囲うように防潮堤(鉛直壁)を設置すべきこと)などの具体的対策を盛り込んだ検討結果を報告しました。
この報告に付された立体図面と平面図が次の二つの図面です。実際には福島第2についても、同様の図面が作成され、合計4枚の図面が作成されています。
※クリックで大きな画像が表示されます。
4月23日に東京電力の金戸氏らが出席して行われた本件原子力発電所の津波水位に関する打ち合わせの議事録には、「想定津波高さが10数mとなる見込みであり、OP.+10mに設置されている主要な建物への浸水は致命的であるとの観点から、津波の進入方向に対して鉛直壁の設置を考慮した解析結果が提示された、壁設置の場合19m程度の水位を想定していることは対外的にインパクトが大きいと考えられることから上層部の意見を聞く必要があり土木G(グループ)にて対応予定」などの記載があります。
ここで、この鉛直壁が、建屋を覆うように南北に設置されていたことが決定的に重要です。
これまでの検察の不起訴理由、そして被告人等の無罪主張の根拠として、この計算結果では、津波は南側から敷地を襲うこととなっており、これに対して、南側だけに防潮堤を築く計画となったはずであり、そのような計画を実施したとしても、東側から押し寄せた津波には効果がなかったはずだということが主張されています。
私たちは、津波の高さが重要であり、波の方向は、波源の設定によって変わりうる。まともな技術者であれば、敷地の南北に建屋を覆うように防潮堤を計画したはずで、検察の主張は机上の空論であると反論してきました。今回のこの図面は、私たちの主張が正しく、東電の技術者は、敷地の南北に建屋を覆うように防潮堤を計画していたことが裏付けられ、検察と被告人らの弁解が成り立たないことを示したのです。
この結果は、直ちに酒井俊朗に報告され、同年6月2日には、吉田昌郎にも報告されました。このほかにも、東京電力は、東電設計に対し、10メートルの敷地上に津波が襲来するとの計算結果を踏まえて、様々な津波対策の解析を依頼しました。
同年5月18日には、数値解析の観点から、津波水位を低減できないかの検討、さらに既存防波堤の付け根に津波減勢効果のありそうな防波堤を新たに設置する場合の解析を依頼しました。
同年6月5日には、沖合防波堤を新たに設置した場合の検討も依頼しました。東電は、東電設計に対して、パラメーターを操作して津波高を切り下げさせようとしているのです。しかし、東電設計はその要求を撥ねのけています。
武藤に対する決裁判断
このように、東電設計の検討結果は、大がかりな対策工事を必要とする内容であり、予算上だけでなく、地元等に対する説明上も非常に影響が大きい問題であることから、土木グループが被告人武藤に報告して判断を仰ぐことになりました。
平成20(2008)年6月10日、吉田昌郎、山下和彦、酒井俊朗、高尾誠、金戸俊道及び機器耐震技術グループ、建築グループ、土木技術グループの担当者が出席し、被告人武藤に、地震本部の長期評価を取り上げるべきとする理由及び対策工事に関するこれまでの検討内容等を、資料を準備して報告しました。
酒井俊朗、高尾誠が行った、地震本部の長期評価を採用して、津波対策を講じる方向での説明に対し、被告人武藤は結論を示さず、
- 津波ハザードの検討内容について詳細に説明すること、
- 4m盤への遡上高さを低減するための概略検討を行うこと、
- 沖合に防波堤を設置するために必要となる許認可を調べること、
- 平行して機器の対策についても検討すること、
を指示したため、酒井俊朗らは、上記事項をさらに検討した上、改めて報告を行うことになりました。高尾誠らは、同日、被告人武藤の指示を受けて、東電設計に対して、既設の防波堤をかさ上げした場合に、取水口前面と取水ポンプ位置での低減効果があるか否かの検討を依頼しました。
これに対して、東電設計は、同年7月8日、それまでに検討した対策工をとりまとめた資料を作成し、東京電力に交付しました。 その資料中には、沖合防波堤を新たに設置した場合、津波水位を数メートル程度低減できることが示されていますが、このときの検討も1号機から4号及び6号機の南側のみならず全面に防潮堤(鉛直壁)を設置することを前提とするものでした。
7月8日には、さらに、津波の進入方向に対して垂直に沖合防波堤を設置するケースで高さ10mという前提で港湾の船舶の出入りを妨げないようにしながらさらに、津波の進入を防ぐような構造の防波堤の検討が依頼されました。これらの検討結果7月22日、報告されました
武藤等によるちゃぶ台返し
平成20(2008)年7月21日には被告人武藤、被告人武黒等が出席して「中越沖地震対応打合わせ」が行われました。その席上「新潟県中越沖地震発生に伴う影響額の見通しについて」と題する資料等が配布され、中越沖地震発生に伴う柏崎刈羽原子力発電所の耐震安全性強化工事等のコストだけでなく、福島第一、第二原子力発電所に水平展開した対策費用の計上も記載され、同年8月末を目処に計画総予算を設定する予定と記載されていました。
この資料の意味するところは、中越沖地震によって柏崎原発が運転停止し、耐震補強のために東電は多額の工事費を投じて工事をしなければならず、それが経営を圧迫していたことです。この点が、次に述べる被告人武藤らによるちゃぶ台返しの伏線だといえます。
同年7月31日、酒井俊朗及び高尾誠らは、改めて被告人武藤に対し6月10日に指示された項目についての検討結果を報告しました。
酒井俊朗らは、それまでに作成した資料に基づいて
- 4m盤への遡上を低減させるための方策、
- 沖合の防渡堤の設置に伴う許認可の内容と必要とされる期間、
- 想定津波水位について房総沖地震の波源モデルを用いる可能性、
- 日本原子力発電や東北電力等の関係各社の検討状況、
- 津波ハザード曲線の算出方法、
などについて説明しました。
被告人武藤は、この報告を聞いて、
- 福島県沖海溝沿いでどのような波源を考慮すべきかについては、時間をかけて土木学会に検討してもらうこと、
- 当面の耐震バックチェックについては、従来の土木学会の津波評価技術に基づいて行うこと、
- この方針について、専門家の了解をえること、
という方針を指示しました。
この被告人武藤の指示により、地震本部の長期評価に基づいて、津波対策を講じるべきとする土木調査グループの意見は採用されないこととなりました。このことは、それまで土木調査グループが取り組んできた10m盤を超える津波が襲来することにそなえた対策を進めることを停止することを意味していました。このことこそが、福島原発事故の決定的な原因です
この津波評価に対して直ちに対策を取るべきであった事情
原子力発電所の津波安全性評価は、従来より「襲来する可能性のある津波」が襲来しても安全性を損なうおそれがないかどうかでなされていました。
本件原子力発電所についての津波高さの評価は、
- 設置許可時 O.P. +3.122m
- 平成6(1994)年 O.P. +3.5m
- 平成14(2002)年 O.P. +5.7m
と変遷してきましたが、東京電力では、その都度、「いつ」そのような津波が襲来するかを考えるまでもなく、津波対策の必要性を判断し、これに対処してきていました。
現に、平成14(2002)年には、非常用海水ポンプ電動機を20cmかさ上げする等の工事を行っています。
ところが、長期評価に基づいて10m盤を超える津波が襲来するという計算結果が出ると、従来の姿勢とはうって変わって、土木学会に検討を委ねて、津波対策を先送りにしたまま、漫然と本件原子力発電所の運転を継続したのです。
被告人武藤は、平成20(2008)年8月上旬ころ、津波水位の最大値が敷地南部でO.P. +15.707mなる旨の計算結果を、被告人武黒に報告していたこともわかっています。被告人勝俣は、会長として、中越沖地震対応会議(いわゆる御前会議)、常務会、株主総会対策の会議などを通じて十分な情報を得ていたことも裏付けがなされています。
被告人らの刑事責任は、会社として予見し、立案された津波対策案を採用しなかったことが原因であることが明らかになりました。弁護団は有罪判決を確信しています。
秋からはいよいよ証人調べが始まります。これだけ、重要な情報の多くが、これまで政府事故調と検察庁によって隠されてきました。これを暴いたのは告訴団の告訴の力と検察審査会の市民の力でした。
この裁判は、市民の力によって開かれた、奇跡の裁判であるといえます。今後とも、福島原発事故の真実を明らかにするため刑事裁判支援団へのご支援をお願いします。
三被告人の言い訳
保田 行雄(福島原発告訴団弁護団)
7.17初公判報告集会での、保⽥弁護⼠の報告です。
第1回公判で、被告人らがどのような言い訳をしているのかをお話します。
刑事裁判では異例だと思うのですが、第1回公判で、被告人側が、検察官役側の冒頭陳述に続いて、弁護側の冒頭陳述を行い、その主張の骨格を明らかにしました。
まず、武藤氏の弁護人から、3者共通の反論が展開されました。それは、検察が不起訴処分にした際の理由と同じようだったと思います。つまり、推本(地震調査研究推進本部)の長期評価が当時は内閣府においても採用されない、中央防災会議においても採用されないなど、その知見について十分に成熟性を持ったものと受け止められてはいなかったのだと。
だから、これを採用することはできない。だから、これに基づいて、具体的に原子力事業者として対策を講ずるべき具体的注意義務を発生させる根拠にはなり得ないのだということです。これが、おそらく、彼らが今後中心的に主張する論点だと思います。
弁護側の冒頭陳述の後に、弁護側の証拠が提出されました。証拠は45点で、その出されたものの表題から見ると、東大の地震研究所の纐纈先生の本であるとか、いってみれば、今回の地震がいかに、長期予測も含めて、予測できない、想定外のものであったのかということを中心にしているようです。あと、東電関係の社員の供述調書などが提出されたようです。
第2の共通の反論は、指定弁護士は主に平成14年7月31日地震本部の地震調査が公表した長期評価や長期評価をふまえた東電設計の津波水位計算によって、被告人らに予見可能性があったと主張するが、長期評価を踏まえた東電設計による津波水位計算は、試みに行われたものであって、試計算と位置づけられるものであり、計算結果通りの津波が襲来することを予見させる可能性を生じさせるものではなかった、これが共通の反論の第2です。
さらに、第3として結果回避可能性、仮に長期評価に基づく予見が可能であったとしても対策を講じる余地は無かったと言っています。平成23年3月11日に福島第1原発に襲来した津波は、長期評価も全く想定していなかった規模の巨大地震が引き起こした巨大津波であり、仮に東電設計による試みの計算結果に対応した津波対策工事が実施されていたとしても、本件事故を防止することはできなかったと言っています。
この点は、実際、先ほども言いましたが、津波が南側から襲来すると見ていたわけですが、実際は違ったわけですけど、図面で示されたように、敷地全体を覆うような防潮堤の工事を予定しておりまして、南側からだけを想定しておらず、津波全体を阻止するような工事を彼らは想定していたわけです。
これに対して、結果回避可能性という点からみれば、ちゃんと十分な対策を考えていたわけでありまして、これは全く成り立たないだろうと思います。これらが3者に共通する主な反論になります。
そして、各人の反論ですが、会長であった勝俣氏の個別の主張は、会長は最高経営層には含まれていない。定款、取締役の決定、社内規定でも会長には業務執行権限はなく、取締役としての分掌業務は与えられていない。要は、社内における権限はなかったと言っています。
会長就任後、社内内部規定などに鑑み、業務については、社長以下の判断を尊重し、相談を受けたときに助言を行うという謙抑的、自制的な立場をとっていた、自ら主体的に原子力発電所の対策を行う立場ではなかったと言っています。
そして、被告人勝俣個人としても昭和38年に東電に入社して以来、一度も原子力関係の部署に籍を置いたことはなく、地震津波に関する専門的知識も無い、原子力発電の技術的な事項に関する専門的な知識も無かったと反論しています。
しかし、実際には、社内で「御前会議」と言われるような会議が行われており、勝俣氏が最終的には原子力発電所の安全性に関する権限を持っていたことは明らかです。
また、勝俣氏の津波対策に関する認識については、中越地震対策において、平成21年に吉田部長から報告を受けたということになっていますが、この吉田部長の発言も、吉田部長はその発言を疑問視している、原子力設備管理部ではこのような疑問視される意見も含めて様々な意見について専門的、技術的観点から、整理検討し、適切に対応するとの発言で、この発言は原子力立地本部が行う津波評価、津波対策に疑義を生じさせるものではなく、所管部署の検討の不備不足を示すものでもない。したがって、この発言を聞いたのみを持って、被告人勝俣が10mを超える津波が襲来することを予見することはできなかった、という弁解をしています。
今後、おそらくこの点については、社内における津波の検討具合と、それがどのように幹部間で共有されていったのかが公判の中で明らかになっていくと思います。そして、その中で勝俣氏がどのような役割を担ったのかが明らかになっていくと思います。
次に副社長であった武黒氏がどのような弁解をしているかです。武黒氏は平成21年に吉田らに報告を求めて、敷地南側でOP+15.7mの津波水位になったことを聞いたと認めています。それについて、武黒氏はこのように弁解しています。
被告人武黒は、波源モデルを仮定し、パラメータースタディをした試計算の結果を聞いたに過ぎず、OP+15.7mの津波が襲来する可能性があるという報告を受けたものではない。試計算の前提であり、長期評価についても専門家の間で評価が定まっておらず、これを専門家に検討してもらうという説明であった。
したがって、このような話しを聞いたからと言って、被告人武黒は本件原子力発電所にOP+15.7mの津波が襲来する可能性があるなどと考えたこともなく、そのように考えることもなかった。彼自身が主観的にこういう津波が来ると言うことの可能性を現実的なものとして考えることはなかったのだから、予見可能性、結果回避可能性の前提たる事実は生じていないのだと言っています。
さらに武黒氏は平成22年6月に東電副社長を退任して、フェローに就任したのですが、フェローについても弁解をしています。フェローはその職責上、業務執行権限を有しておらず、東電の業務執行を行うことがないのであって、フェローは技術面を補助する立場にすぎない。したがって、原子力の安全運転業務に従事することはない。実際に被告人武黒はフェローとして、そのような業務に従事したこともないと言っています。
しかし、実際は武藤氏と一緒になって津波対策を実質的に指導していた最高指導部の1人と言うことになるわけですが、こういう弁解をしています
3人目、武藤氏はこういう弁解をしています。1つは、土木グループの従業員と武藤氏の打ち合わせが行われて、その結果、15.7mの津波が襲来するという報告を受けていたということに対して、武黒氏や勝俣氏と違って、その意味・内容についてどのように理解していたかの弁解をしています。
武藤氏は報告をした土木グループの従業員に対して、津波評価技術が作成された後に長期評価に記載されているように、福島県沖の海溝よりでも津波地震が発生することを示す新たな知見が生じたか確認した。実際に新しい科学的な知見があって、福島県沖で地震が起こるということを想定しているのかどうかと確認した。
これに対して、土木グループからは新たな知見が生じたわけではない旨の説明がなされた、と主張しています。要は、土木グループの人たちに責任を転嫁しているわけです。新しい知見が生じたわけではない、従来と変わらないのだと、この点を非常に強調しています。
だから、新たに対策をする必要が無いのだと、その上に立って、彼は土木学会に検討を依頼したわけですが、そこで、専門家達のコンセンサスを得た上で、必要に応じて、津波対策工事を実施するという判断は事後的に見ても、工学的に妥当と認められるべきものということで正当化をしています。
このようにして被告人武藤に予見可能性は生じておらず、予見義務も結果回避義務も生じておらず、かつ、因果関係も認められないから、被告人武藤は無罪である、ということを主張しています。
このように立場はそれぞれ微妙に違うのですが、共通して言っていることは、長期評価に対する信頼性を崩していく、これは検察の不起訴処分の時の中核でもあった、ここの点ですね。
もうひとつは、15.7mに対する評価の問題です。これはあくまでも試みの計算であると言って、いってみれば、具体的な対策を生じさせる前提条件にはなり得ない、こういう主張をしています。
幸い今回の事件では、被告人側も冒頭陳述を行って、被告人側の主張を明らかにしています。今後、指定弁護士の主張と合わせて、被告人がどういうことを言っているか、どこに問題があるのか、いかに説得力が無いのかを具体的な事実に基づいて広く明らかにしていくことが非常に大事だと思います。次回公判は、追って指定するということになっていて日程は決まっていませんが、9月以降に日程が決まってくると思います。
引き続き、この公判を注視して、この裁判の意義をしっかりと学習して、この公判の意義を広く訴えていければと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。
入会者からのメッセージ
- *スペースの都合上、メッセージを一部割愛させていただいております。ご容赦ください。
事務局からのご連絡とお願い
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