福島原発刑事訴訟支援団ニュース第8号 青空

東京地裁の無罪判決許さず控訴!
東京高裁で逆転有罪判決を勝ち取ろう!:佐藤和良

佐藤 和良(福島原発刑事訴訟支援団団長)

 福島原発刑事訴訟支援団のみなさま

 9月19日、東京地裁・永渕健一裁判長は、東京電力福島第一原発事故の責任を問い、業務上過失致死傷罪で強制起訴された勝俣恒久、武藤栄、武黒一郎ら旧経営陣3被告の刑事裁判で、「被告人らは、いずれも無罪」という、事実誤認の不当判決を下しました。

 はじめに無罪ありきの判決は、15.7mの津波高を予測して、津波対策工事を計画していながら、経営判断で先送りした結果、過酷事故を引き起こしたという事実をねじ曲げ、公判で立証された証拠を無視して「津波予見は困難」と判断したのです。

 この判決は、原発が過酷事故を起こさないための絶対的な安全確保は必要ないという、国の原子力政策と電力会社に忖度した誤った判決であり、司法の独立を損ね、次の過酷事故を招きかねない危険な判断でした。

 事故から8年7ヶ月。未だに原子力緊急事態宣言は解除されていません。福島県民はじめ全ての被害者、被災者の苦難は続いています。しかし、判決要旨を読むかぎり、裁判所がこの原発事故の被害の実態、被告人らの行いに対し、まっとうな判断をしたとは到底思えないのです。

検察官役の指定弁護士は「国の原子力行政を忖度した判決」と批判。再び踏みにじられた原発事故の被害者と遺族、福島県民をはじめとする被災者に、血も涙もない不当判決への怒りと憤りが広がりました。

 しかし、呆れ果てても諦めない!

 福島県民はもとより、正義を求める日本国民、全世界の人々は、この蛮行を許しません。

支援団は、9月21日から、検察官役の指定弁護士の皆さんに控訴のお願いをする、緊急署名「東電刑事裁判元経営陣「無罪」判決に控訴してください!」を開始し、指定弁護士の皆さんに、2万筆ちかい署名をお渡しました。

 9月30日、ついに、指定弁護士が控訴の手続きを取り、「一審の判決は到底納得できず、判決をこのまま確定させることは著しく正義に反する。旧経営陣3人の負担を考慮してもなお、上級審で改めて判断を求めるべきとの結論に至った」とコメントを発表しました。

 東京電力旧経営陣3名の刑事裁判は、東京高等裁判所での控訴審に入ります。石田省三郎弁護士はじめ5名の指定弁護士の皆さんが再度、弁護士会の推薦を受け、再び検察官役の指定弁護士を引き受けてくださるよう切に願うものです。

 東京高等裁判所での控訴審では、事実誤認の原判決を逆転するために、東京地裁・永渕健一裁判長が却下した、福島第一原発や双葉病院の現地検証の実現はじめ、地震本部の長期評価の信頼性、被告人らの関与を明確に立証した山下調書の信用性、結果回避措置の実施可能性等々、原判決の事実誤認を覆すための追加の立証を一つ一つ成し遂げ、たとえ、有罪に持ち込む道は険しくとも、何としても逆転しなければなりません。

 地裁判決を許さず、無念の死を遂げた被害者、その遺族のみなさん、そして福島県民はじめ多くの被災者のみなさんの声を一つに、国民世論と国際世論に訴え、東京高裁での逆転有罪判決に向けて、再び、手をしっかりつないで、立ち上がっていきましょう。

 河合弘之監督の映画「東電刑事裁判 動かぬ証拠と原発事故」の「不当判決批判編」も製作予定です。11月4日の「地裁判決を許さず逆転有罪をめざす福島県集会」を皮切りに、全国で報告会を開催し控訴審に立ち上がりましょう。


永渕不当判決を糾弾し、東京高裁での逆転有罪判決を求めて闘おう!:海渡雄一

海渡 雄一(福島原発告訴団弁護団・被害者参加代理人)

異常だった訴訟指揮

 思い返せば、この裁判は始まりから異常でしたね。傍聴のために福島から駆け付けている市民をまるで暴徒でもあるかのように、所持品をすべて取り上げ、傍聴席と法廷の境界に屈強な衛視を何人も立たせて、廷内を威圧し、被告人らを暴徒から防衛するかのようにして審理はすすめられました。指定弁護士が強く求めた原発現地の現地検証も一切実施しませんでした。

 この事件はとても単純な事件です。東電の土木グループは政府の地震本部の長期評価に基づいて津波対策を講ずるべきことを、役員に進言しました。しかし、役員は最終的に工事のコストと地元から運転停止を求められることを恐れて対策を先送りにしました。

そして、津波計算の結果を、国や県、専門家にも知らせず、国や、自治体、専門家、他会社に対して、疑問の声が広がらないように根回し工作を展開しました。

東日本太平洋沖地震が発生し、予測していたのとほぼ同等の津波が福島原発に襲来しました。部下が進言していた対策を講じていれば、事故の発生は食い止められたと考えられます。このような経過の下で、役員たちの過失責任を問えるかが、この裁判の焦点でした。

判決の七つの誤り

 私は、この判決には次の7点の誤りがあると考えます。詳しい分析は、支援団ホームページに私の分析を載せていますので参照してください。

  1. 深刻な被害に向き合わなかった誤り
  2. 原発に求められる安全性のレベルを切り下げた誤り
  3. 停止以外の結果回避措置を検討しなかった誤り
  4. 御前会議で長期評価に基づく津波対策を講ずる方針が了承された事実を否定した誤り
  5. 長期評価には原子炉の停止を求めるほどの信頼性はないとした誤り
  6. 推本津波のデータを社外には隠しながら、土木学会に問題を先送りし、国や自治体などを欺いた政治工作を追認した誤り
  7. 福島県民を敵視し、不都合な証拠には目をつむり、不公正な事実認定をした誤り

 指定弁護士の石田氏が会見で述べたように、この判決が国の原子力行政に対する忖度判決だという批判は当たっています。原発事故を繰り返さないためには、判決をこのまま確定させてはいけないと切実に思います。

控訴審での闘いの課題

 判決直後から集めた控訴を求める署名は、短期間に二万人を超えて集まりました。そして、9月30日には指定弁護士が控訴をしました。東京高裁での闘いがすでに始まっているのです。高裁では、もう一度、指定弁護士の推薦手続きが取られます。弁護士会が、石田弁護士たち五名の指定弁護士チームを再度推薦してくれるように、お願いし、もう一度引き受けていただくことが必要です。同じ指定弁護士が選ばれることを願う上申書を弁護士会にも提出しています。

 次に、指定弁護士たちが控訴趣意書を作成します。私たち、被害者代理人も、意見書を準備したいと思います。これに対して、弁護人・被告人側も答弁書を作成します。そして、東京高裁で、どのような審理をしてもらうかを考えなければなりません。地裁でやらなかった新たな証拠調べとして、福島第一原発や双葉病院の現地検証がどうしても必要だと思います。地裁判決は福島事故の被害の実態を無視しました。これを覆すには、廃炉となった原発、帰還困難区域、とりわけ双葉病院の状況を肌に感じてもらう必要があると思います。
永渕健一裁判長
永渕健一裁判長
(イラスト:人見やよい)

 まず、そもそも推本の長期評価の信頼性については、島崎先生や都司先生や内閣府の担当事務局の前田氏らが十分立証したと思うのですが、判決がこれだけひどい認定をしている以上、追加の立証作業が必要かもしれません。山下調書の信用性を認めず、御前会議で推本の長期評価に基づいて対策を進める方針が了承されたことについては、メールや関連会議の議事メモにも記載があるのに、不合理な判断でこれを否定した点、さまざまな結果回避措置がいつまでに実施可能だったか、また津波対策が開始されたら、原子炉は地元の自治体や住民からの要請で停止されたはずであることなどが、追加の立証のテーマとなることでしょう。

私たちはあきらめはしない

 刑事事件の高裁の審理で、新しい立証を認めさせることは、基本的に言って、大変むつかしいことなのですが、地裁判決を覆すためには、新たな証拠調べが必要不可欠です。司法の安倍支配が進み、裁判の行く手は絶望的ではないかという見方をする方が、私たちの仲間の中にも見られます。確かに最高裁判事の任命権を持つ安倍政権が、日弁連の推薦した候補を最高裁判事に任命しなくなっているのは事実です。

それでも、東京高裁で、国を相手の裁判に勝つこともあるのです。今年の四月に、私は法務省と国土交通省を相手にした二件の国家賠償訴訟で、地裁での敗訴判決を覆して勝訴することができました。いずれも、高等裁判所のベテラン判事が丁寧に事件を審理し、素晴らしい判決を出してくれました。そして、国も上告せずにこれらの判決は確定したのです。日本の裁判官には憲法上高い独立性が保障されています。気骨のある、良心をもつ裁判官は、残っているはずだと私は信じています。あきらめてしまっては、何も変えられません。

 そして、裁判所が新たな証拠調べを決断するかどうかは、被害者遺族を含む福島のみなさんの意見、国民全体の意見、国際世論からの批判などに大きく左右されます。私たちは、様々なメディアで、判決批判を全面的に展開していく予定です。河合監督の映画「東電刑事裁判 動かぬ証拠と原発事故」の「不当判決編」を作るプロジェクトも始まっていて、11月の集会ではご披露できると思います。

 先日はデモクラTVやIWJで対談をやりましたが、機会があれば、様々なメディアへの投稿や各地での講演も、手分けをして積極的に引き受けていきたいと思います。

 高裁の第一回の期日がいつになるかはわかりません。第一回目の期日には、できる限り多くの市民が、東京高裁を取り囲むことが大切です。そのことをいまから呼びかけていく必要があります。東京高裁での逆転有罪判決を求めてともに闘いましょう!

私たちは、あきらめはしない。
正義を今 求めるこの手に !


入会された方々から支援団へのメッセージ

福島県 Wさん
判決、この国が大変な所にきている事を改めて思わされております。
東京都 Tさん
福島でおきた原発事故ですが、日本中原発だらけだった。どこで起きてもおかしくないことを戦ってくださってありがとうございます。応援したいと思っています。
福島県 Kさん
日本が完全に法治国家でなくなるのか、どうかの瀬戸際です。日本国民を被ばくさせた罪は断じて許すわけにはいきません。腐りきった官僚 東電 法曹界の癒着は、この際何としても断ち切らせる必要があります。遅まきながら入会させていただきます。
大阪府 Fさん
今に始まったことではないが、誰も責任を取ろうとしない日本。しかし、こんな理不尽なことが許されていいはずがない。是非とも有罪判決がくだされんことを。
東京都 Mさん
シビア・アクシデントから私達はどれだけのものを学んだのか?責任を明らかにし、被災者に精一杯の支援をすることでしか、私達は子どもたちに未来を語ることが出来ない。
宮城県 Mさん
「想定外」なんて東電に言わせてなりません。(想定することを怠った)のですから。東電の有罪まで応援しつづけますよ。
*たくさんのメッセージを頂いております。ご紹介しきれなかった方々にも感謝申し上げます。

逆転有罪判決を!
地裁判決を許さず逆転有罪判決をめざす集会

福島県集会

  • 日時 2019年11月4日(月・祝) 13:30~16:00
  • 会場 郡山市民文化センター 5階集会室(郡山市堤下町1-2)

全国集会

弁護団から一審判決や控訴審についての解説。
福島の告訴人から判決を受けてのリレースピーチなど。
東京高裁での逆転有罪判決をめざし、この集会からまた一歩を踏み出しましょう。

逆転有罪判決を!地裁判決を許さず逆転有罪判決をめざす集会


事務局からのお知らせとお願い

支援団の活動は、みなさまの年会費・カンパで支えられています。
2019年の会費の納入がまだの方はお願いいたします。

  • 年会費は一口1,000円、一口以上をお願いいたします。カンパも歓迎です。
  • 振込用紙(手書きの払込取扱票)で納入される場合は必ずお名前・住所をご記入ください。
  • ゆうちょ銀行の普通口座(通帳)からお振込み(窓口・ATM・ネットバンキング)をされる場合、その口座開設時のお名前・ご住所で通知されます。ご住所等に変更があった場合はその旨ご連絡ください。
  • ゆうちょ銀行以外の金融機関からお振込みされる場合、こちらには口座名義人のお名前がカタカナで通知されます。間違い登録を防ぐため、お手数ですがメール等で入金のご連絡をいただけると助かります。
  • 領収書が必要な場合はご連絡ください。メールの際は、件名を「領収書依頼」としてお送りください。

ゆうちょ銀⾏(郵便局)からお振込みの場合

郵便振替口座:02230-9-120291
口座名:福島原発刑事訴訟支援団

その他の⾦融機関からお振込みの場合

銀⾏名:ゆうちょ銀⾏
⾦融機関コード:9900
店番:229
預金種目:当座
店名:二二九(ニニキユウ)
口座番号:0120291

支援団を、知人・友人の方々にも紹介して広めてください。ご紹介いただくために入会申込書などが必要でしたらご連絡ください。必要部数をお送りいたします。


ニュースの名前「青空」は、強制起訴が決まった2015年7月31日の東京地裁の前で見た「どこまでも晴れわたった青空」から命名しました。表題は佐藤和良団長の書によります。

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福島原発刑事訴訟支援団ニュース 第8号 青空
2019年10月19日発行
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