東電株主代表訴訟で裁判官が総がかり、武藤元副社長証言の不自然さを暴く
添田孝史 2021年7月10日
福島第一原子力発電所の事故を起こした当時の経営者たちの責任を問う株主代表訴訟(東京地裁)で7月6日、4回目の証人尋問が開かれた。この日は、被告の武藤栄・東電元副社長への原告側からの反対尋問と、武黒一郎・元副社長、勝俣恒久・元会長、清水正孝・元社長らへの尋問があった。
原告側の弁護士は反対尋問で、社内で残されていた関係者の電子メールや会合議事録の内容と、武藤氏の証言が多くの点で食い違っていることを指摘した。そして、この日の裁判でもっとも注目されたのは、引き続いて行われた3人の裁判官による武藤氏への補充尋問が異例の1時間近くも続いたことだ。そこでのやりとりで武藤証言の不自然さが一つ一つ浮き彫りにされた。(原告側の反対尋問については別の記事でレベル7に配信する。武黒、勝俣、清水氏らの尋問については、7月20日の反対尋問と合わせて後日記事にする予定)
「推本はバカみたいじゃないですか」裁判長、吠える
朝倉佳秀裁判長は、東電社内で2008年6月10日と7月31日に開かれた会合に注目していた。
政府の地震調査研究推進本部(推本、地震本部)の長期評価にもとづくと、高さ15.7mの津波が福島第一原発に襲来するという計算結果が、この会合で担当社員から武藤氏に説明された。武藤氏は、推本が、なぜ福島沖に津波地震を想定したのかについて「酒井さん(担当社員)からわからないと説明された」と繰り返した。
朝倉裁判長は「推本の目的が何で、どんなメンバーがいるか知っていましたか」「(推本の予測が)理解できないというあなたも、酒井氏も地震学の専門家ではない。地震の発生機序とかに詳しいわけではない」と疑問を呈した。
それなのに、推本に根拠を確かめるわけでもなく、武藤氏は土木学会に年オーダーかけて検討させる方針を、部下に指示した。これについて、裁判長は
「あなたの話を聞いていると、推本がバカみたいじゃないですか」
「いきなり土木学会で検討しろは、おかしくないですか」
と大きな声で問いただした。武藤氏は「経営として適正な手順」と答えたが、説得力は今ひとつだった。
推本の予測の根拠が専門外の自分たちにわからない。ならば4年かけて土木学会に検討させよう、という武藤氏のやり方が不自然だという裁判長の疑問はもっともだろう。
根拠がわからないなら、まずは推本に聞きにいけばいい。長期評価をとりまとめた島崎邦彦・東大名誉教授(原子力規制委員会元委員長代理)も「地震本部はどれだけバカにされているのでしょうか。土木学会にどれだけ専門家がいるのですか。地震本部に聞きにくればいいのに」と述べている[1]。
しかし聞きにいって「当然、原発で想定しなければならない」と島崎氏に言われてしまうと、もう逃げようがない。東電は、それを避けたのだろう[2]。
[1] : 添田孝史『原発と大津波』(岩波新書、2014)p.101
[2] : 例えば、東電土木調査グループの高尾誠氏は、2008年3月10日に、こんなメールを社内に送っている。「先日は、福島沖日本海溝でも津波の波源を設定すべきか否かについて聞き、設定すべきとだめ押しされました。明日土木学会で今村先生に会うので、聞いてみていいですか 聞かない方がいいですか ( やるべきと言われたら引けなくなります)」。
(続きは下記から)
東電株主代表訴訟で裁判官が総がかり、武藤元副社長証言の不自然さを暴く
東京電力福島第一原発事故を検証するニュースサイト – level7 (level7online.jp)