福島原発刑事訴訟支援団ニュース第13号 青空

東京高裁は被害者の声を聞け!長期評価の信頼性を認め有罪判決を!
4.5高裁へ意見書提出行動、4.10福島県民集会、6.6第3回公判-結審に集まろう!:佐藤和良

佐藤 和良(福島原発刑事訴訟支援団団長)

福島原発刑事訴訟支援団のみなさま

原発震災11回忌。東日本大震災、福島第一原発事故から丸11年になりました。2011年3月11日19時3分に、政府が発出した原子力緊急事態宣言は未だ解除されていません。にもかかわらず、不完全除染のままでの避難指示区域の解除、低線量の被曝を強制する帰還政策、民意を無視した汚染水の海洋放出方針のゴリ押しなど、政府と東電による被害者切り捨てが進められています。

東京高等裁判所第10刑事部(細田啓介裁判長)での東電刑事裁判控訴審は、昨年11月の第1回公判で、検察官役の指定弁護士が一審では採用されなかった裁判官による現場検証と新たな証人調べを請求しました。私たち支援団も現場検証と新たな証人調べの実現を求めて、署名活動を行い、集会(昨年12月郡山、本年1月東京)を開き、1月21日の高裁への署名提出行動を行ってきました。

2月9日の第2回公判では、傍聴券整理券の配布に約200名が並び、11時からは高裁前アピール行動を行いました。法廷は14時過ぎに開廷。細田啓介裁判長は、検察官役の指定弁護士が請求した裁判官による現場検証と新たな証人調べについて、いずれも「必要性がないため不採用とする」との決定を示しました。この瞬間、傍聴席からは「え~っ」「ああ」という声があがり、検察官役の指定弁護士は「原発の状況や津波の痕跡を認知することは必要不可欠」「審理に大きな禍根を残す」「憲法違反、決定を取り消せ」と異議を申し立てましたが、裁判長は棄却しました。

その一方、指定弁護士側が証拠採用を求めた12点の書証のうち、長期評価の信頼性を認めた損害賠償請求の千葉避難者訴訟の東京高裁判決文など9点と弁護側の証拠申請した事実取調べ請求書など書証4点が採用されました。

次回、6月6日の第3回公判では、指定弁護士側と弁護側の双方が書証の補充弁論を行い、被害者が心情意見陳述を行い結審する見込みです。

東京高裁第10刑事部 細田啓介裁判長
東京高裁第10刑事部
細田啓介裁判長

東京高裁による現場検証と新たな証人調べの不採用は、誠に残念ですが、細田裁判長は、採用した千葉避難者訴訟の住民勝訴の東京高裁判決から長期評価の信頼性を認めるべきです。

21年2月の千葉避難者訴訟の東京高裁(第22民事部 白井幸夫裁判長) 判決は、東電と国の責任を認める判決です。判決は、長期評価が法に基づき設置された国の機関である地震本部の地震調査委員会として公表されたものと正確に認定しています。この判決の推本の長期評価の信頼性と国の責任に関する判示部分は、刑事裁判の帰趨に大きく影響します。海渡雄一弁護士は「推本の長期評価が、津波対策を基礎づける信頼性を有しているという前提に立ち、一審の誤った無罪判決を破棄し、被告人らに対する有罪判決を下すべきである」と指摘しています。

私たちは、呆れ果てても諦めない!と、この11年、様々な苦しみ、悔しさ、憤りを抱えながら、なぜ、取り返しのつかない原発事故が引き起こされたのか。真相を究明し二度と事故を起こさせない、真の被害者救済に道を開くために、政府と東電に抗い、何度も立ち上がり、ともに手をつなぎ歩んできました。刑事裁判で明らかになった事実が民事裁判での最高裁勝利判決にもつながりました。

第3回公判―結審に向けて、支援団は弁護団と共に「東京高裁は被害者の声を聞け!長期評価の信頼性を認め有罪判決を!」と、東京高裁に意見書を提出します。4月5日12時半、東京高裁前での意見書提出行動、4月10日14時より郡山市の安積総合学習センターでの福島県民集会に、皆様の参加を訴えます。

正念場です。どうか、心一つに、力を出し合いましょう。(2022年3月11日)


東電刑事裁判 第2回控訴審 傍聴体験記:I.S(福島県在住)

I.S(福島県在住)

今回の裁判は特別な裁判だとの認識で、仕事の勤務日を振り替えてもらって福島から上京した。コロナ禍、ヒューマンディスタンスチェーンは中止されたが100人ほどが集まり、東京高裁前アピールが行われた。傍聴整理券はコロナ禍で密集を避けるためリストバンド式に変わっている。傍聴抽選に並んだのは約200人(一般傍聴席は37席)、私は残念ながら今回もはずれたが、集まってくださった皆さんのお陰で25席を確保して頂いたので入ることができた。感謝だ。

傍聴者は入廷1時間前から柵の内側のスペースで手荷物検査と厳しいボディチェックを受けた。裁判所入所時に手荷物検査と金属探知機の通過が実施されているのだが、ここでは検査官からひとりずつ全身に金属探知機を当てられる。そのうえ、女性には女性の検査官から両手を横に広げた状態で全身をくまなく触られるのだ。しかも何か隠し持っていないかという目で見ている男性の検査官たちが、交代で行うためにズラリと並んでいる。こんなに何人も居る必要ある? なぜここまで厳しく? 嫌がらせか?と勘ぐってみたくもなる。性格悪くなりそう! チェックが終わり狭いスペースに列をつくって並んで待っていると(コロナ禍なのに換気悪いぞ)、最後に入ってきたジャンパーを着た男性の傍聴者が3人の検査官に囲まれて尋問を受けはじめた。私はトイレに行きたくなり、許可を受けて柵の内側にあるトイレに行って戻ると、また同じ女性の検査官からボディチェックを受け、マスクも下げて見せるように言われたので腹が立った。トイレで何を画策するというのだ? 男性への尋問はしばらく続いていたがそのあげく、囲まれたまま柵の外側へと連れて行かれた。何だったのか? それで、裁判の開始は7分遅れたのだった。

被告人は勝俣元会長が体調不良で欠席、武黒元副社長と武藤元副社長が出廷していた。監視をする衛視が前から傍聴者をじっと見据えている中、裁判長は証拠の採用、不採用を早口で読み上げ、私たちが求める現場検証と専門家の証人尋問を却下したので、指定弁護士が「異議あり!」とすぐに申し立てた。納得いかない、大きな禍根を残すから取り消してほしいと。カッコヨカッタ!! しかし裁判長は却下の理由も述べず残念な決定を下した。30分で審理は終わった。落胆したが、「採用された証拠もあり、遺族からの被害陳述もあるのでまだまだチャンスもある」との弁護士さんのコメントが報告集会では聞けた。結審までに、これからできることをやりましょう、ということが確認された。

30分で終わるという拍子抜けした公判だったが、人権無視の行き過ぎた監視体制への怒りとともに、あらためて、“あきれはててもあきらめない!”という私たちの姿勢を強く肝に銘じ、一層奮起する気持ちになった。

神山啓史・指定弁護士「異議あり!」「現場検証や証人尋問をしないという判断は大きな禍根を残す」


控訴審第2回期日の評価、逆転有罪へ向けて:弁護士 大河陽子

弁護士 大河 陽子(福島原発告訴団弁護団)

1 控訴審第2回期日が2022年2月9日(水)14時から東京高裁104法廷で行われました。

この期日の焦点は、福島第一原発敷地内の現場検証の採否と、3人の専門家(濱田信生氏(気象庁元職員、地震調査研究推進本部の海溝型分科会元委員)、島崎邦彦氏(東大名誉教授、地震調査研究推進本部の長期評価部会元部会長)、渡辺敦雄氏(原子力工学、東芝の元技術者))についての証人申請の採否でした。

しかし、細田啓介裁判長ら(東京高裁第10刑事部)は、現場検証と証人申請のいずれも必要性なしとして却下しました。その理由について一言の説明もしませんでした。

この却下決定に対して、検察官役の指定弁護士は「大きな禍根を残す」と厳しく批判し、異議を申し立てました。しかし、この異議についても、裁判長は、右陪席、左陪席に耳打ちをして頷き合った後、直ちに棄却しました。

2 原発事故は、交通事故のように日常生活で見聞きする事故ではありません。想像を絶する事態が発生したのです。

想像を超える事態を少しでも感じ取るために、裁判官が防護服を着て、靴を履き替えて、線量計を付けるという特別な装備をして原発敷地内へ入れば、目に見えない、匂いもしない放射性物質を取り扱うことの怖さ、やっかいさ等を体感できたと思います。福島第一原発の敷地内に入れば、原発の眼前に大海原が広がり、かつ、原子炉等は約30mの高台をわざわざ20mほど掘り下げた場所に位置しており、津波に極めて脆弱であることを実感できたと思います。また、津波による浸水防止措置(水が入ってくる開口部を塞ぐように板を貼るなど。)が容易にできたことを目の当たりにできたと思います。さらに、避難指示によって人の気配のない町を感じ、双葉病院の入院患者らが避難中に放射性物質によってどれほど追い詰められ、命を落としていったのかに思いを馳せることで、福島第一原発事故をリアルに感じとれ、事故を起こした責任を問う土台を作れたと思います。

また濱田氏、島崎氏の証言を聞けば、長期評価の信頼性が十分であることが分かったと思います。渡辺氏の証言を聞けば、水密化対策等の津波対策工事が容易にできたことが分かったと思います。

これら指定弁護士が求めた現場検証や証人申請を認めなかったことは、日本で初めて起きた原発事故の刑事責任を正しく問うことから少し遠ざかってしまったといえます。

3 しかし、次のとおり、まだまだ逆転の材料はあると考えています。

(1)千葉訴訟の控訴審判決

控訴審第2回期日では、双方が申請した証拠が何点か採用されました。

特に重要だと思う証拠が、避難者が原告である千葉訴訟の控訴審判決です。同判決は、長期評価の信頼性を肯定し、国の責任を認めた避難者勝訴判決です。

ア 同判決は、長期評価について、「長期評価に示された見解については、相応の科学的信頼性のある知見であると評価することができ、津波評価技術と比較しても、その科学的信頼性において、優位とはいえないまでも、同等である」としてその信頼性を肯定しました。続けて、「規制機関である経済産業大臣は、津波評価技術の知見に依拠して規制権限行使の要件具備の判断をしていたのであり、少なくともこれと同等の科学的信頼性を有する長期評価に示された見解について、これを判断の基礎としないことは、著しく合理性を欠くというべきである。」として国の責任を肯定しています。

これによると、長期評価をその判断の基礎としないことの責任が国にあるのですから、第一義的責任を負う原発事業者である東電は、もちろん長期評価を前提に津波対策をしなければならなかったという結論につながります。

イ また、同判決は、被害の深刻な実態も認定しています。例えば、同判決は、「居住地からの避難を余儀なくされた者は、居住地周辺の多くの住民が相当長期にわたって避難すること等により、生活物資の調達から、周辺住民との交流、伝統文化等の享受に至るまでの様々な生活上の活動を支える経済的、社会的、文化的環境の生活環境がその基盤から失われた場合や、居住地周辺がある程度の復興を遂げたとしても、生活環境がその基盤から大きく変容した場合には、それまで慣れ親しんだ生活環境を享受することができなくなり、それによる精神的損害を被ったということができる。」と原発事故によって生活を丸ごと根こそぎ奪われた実態を認定しています。

裁判官が同判決を読めば、現地検証の機会を自ら逃したものの、原発事故の被害の深刻さを読み取ることができると思います。そして、原発事故が深刻な被害を招くものであるからこそ、原発には高度な安全性が求められることを理解でき、長期評価の信頼性を安易に否定した東京地裁判決は誤りだったと認識することになると思います。

(2)一審(東京地裁)の十分な主張立証

そもそも一審(東京地裁)の審理でも十分な主張立証がなされています。
一審での尋問調書や証拠書類を素直に読めば、長期評価の信頼性を認めざるを得ないと思います。千葉訴訟の控訴審判決でも、生業訴訟の控訴審判決でも、刑事裁判と同じ証拠が用いられて、長期評価の信頼性が肯定され、国の責任が認められています。一審(東京地裁)の永渕裁判官ら3名の判断が誤りであったことは、避難者訴訟の高等裁判所の裁判官らが何度も示してきています。

(3)意見書の提出

福島原発告訴団弁護団としては、控訴審第2回期日で採用された証拠や東電株主代表訴訟での専門家や被告らの尋問に基づく主張、全国各地の避難者訴訟の判決に基づき、被告人らに責任がある旨の意見書を作成し、提出する予定です。

(4)被害者参加人の心情陳述

さらに次回の控訴審第3回期日では、被害者参加人の心情陳述も予定されています。裁判官の面前で、被害者参加人が心情を訴えかけることが裁判官の心を動かし、本件に真摯に向き合うきっかけにもなると思います。

(5)避難者訴訟における最高裁の状況

生業訴訟、千葉訴訟、前橋訴訟の3件の避難者訴訟について、最高裁での口頭弁論が4月にそれぞれ行われる予定です。

このうち仙台高裁(生業訴訟控訴審)と東京高裁(千葉訴訟控訴審)は、刑事裁判で出てきた証拠を用いて、東電と国の責任を認め、その対応を厳しく断罪する判決を下しています。この2つの判決は、国の責任を認める前提として、長期評価の信頼性を認めています。3つの高裁判決のうち2つが長期評価の信頼性を認めている状況では、最高裁が長期評価の信頼性を認める判決を出す可能性が高いと考えます。

最高裁が民事訴訟とはいえ長期評価の信頼性を認める判決を出すと、刑事裁判でも長期評価の信頼性を認めざるを得ないと考えます。

4 以上のとおり逆転有罪へ向けての材料は多々あります。私たちができることを着々と進めて、控訴審第3回期日を迎えようと考えています。控訴審第3回期日までに、集会や意見書提出等の行動が予定されています。ぜひ、みなさま最後まで一緒に頑張りましょう。


【今後の予定】

6月6日(月)14時開廷の第3回控訴審で結審です!
東京高裁前にお集まりください!

*開廷時刻より前に裁判所前でアピール行動します


東京高裁は被害者の声を聞け!
長期評価の信頼性を認め有罪判決を!

東京高裁への意見書提出行動&東京集会

  • 【日時】 2022年4月5日(火)
  • 内容
    • 12:30~13:00 東京高裁前アピール行動
    • 13:00 意見書提出
    • 14:30~15:30 院内集会:参議院議員会館・B-104

福島県民集会 *会場が変更になりました!

  • 【日時】 2022年4月10日(日)14:00~15:30
  • 【場所】 安積総合学習センター2F 集会室
    安積総合学習センターGoogle Map
  • 大河陽子弁護士「東京高裁に提出した意見書で主張したこと」
    • *福島県民集会は事前にお申し込みください
      080-5739-7279
      info@shien-dan.org
    • *安積総合学習センターはエレベーターがありません。お体が不自由な方の昇降にご協力をお願いします。

事務局からのお知らせとお願い

支援団の活動は、みなさまの年会費・カンパで支えられています。2022年の会費の納入をまだされていない方はお願いいたします。

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店名:二二九(ニニキユウ)
口座番号:0120291


ニュースの名前「青空」は、強制起訴が決まった2015年7月31日の東京地裁の前で見た「どこまでも晴れわたった青空」から命名しました。表題は佐藤和良団長の書によります。

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福島原発刑事訴訟支援団ニュース 第13号 青空
2022年4月1日発行
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