海渡弁護士による証拠要旨の解説:支援団初公判集会レポート第3回

6月30日の初公判集会の内容を、サイエンスライターの添田孝史さんよりレポートして頂きました。3回に分けて掲載いたします。

添田孝史(サイエンスライター、元国会事故調協力調査員)

支援団初公判集会レポート第3回
記者会見兼裁判報告会の中で海渡弁護士が解説した、証拠要旨の内容について

海渡弁護士

指定弁護士が証拠の要旨について読み上げた。みなさんにお渡しすることはできないが、中身を聞かれたら答えてよいと言われたので、重要部分をピックアップして話します。

甲A222 平成17年12月15日 東京電力の酒井氏から関係者に送信した想定外津波に対する影響評価に関する保安院要請と題するメール

保安院幹部、原子力基盤機構幹部の懸念からして、早急に対応してほしい。少なくとも設計を上回る津波が発生した場合、プラントの状態がどうなるかなどのケーススタディは早期に実施できるはず。2プラント程度選定し、具体的な検討を進めたい。福島サイトを考えている

それから、

甲A70 平成18年10月6日 原子力安全・保安院から電事連に対して行った指示の内容を記載したメモ

津波対応の個所では、自然現象であり、設計想定を超えることもありうると考えるべき。設計想定を超える津波が来る恐れがある。想定を上回る場合、非常用海水ポンプが機能喪失し、そのまま炉心損傷になるため安全余裕がない

こういうことを、保安院が電事連を集めて訓示している。耐震バックチェックでこのへんしっかりやれよと言っていたことがわかる。

それから、中越沖地震が起きた後、

甲A74 平成19年11月1日
東電設計が福島第一、第二発電所に対する津波検討について作成した書面

本件原子力発電所に対する津波の検討などについて、活字で記述されているものに赤字の手書きの書き込みがあり、検討業務と問題点と最新の知見等が記載されています

これがシミュレーションと言われているものの始まった瞬間を記録しているもの。

甲A75 平成19年12月10日
日本原子力発電の関係者らが、東京電力の高尾氏から聞き取ったメモ
これまで原子力安全・保安院の指導を踏まえても、推本で記述されている内容が明確に否定できないならば、バックチェックに取り入れざるを得ない、などと記載されています

推本の長期評価をバックチェックに取り入れるしかないと言ったことを記録したメモがあった。

甲A76物 高尾氏のパソコン内にあった送受信したメールなどであり、時期は平成20年1月23日から平成21年9月24日のもの

関係者間で、本件原子力発電所の耐震バックチェックに関するやりとりが行われています。平成20年1月31日のメールに添付された福島第一、第二原子力発電所における津波のバックチェックについてと題する資料には、地震調査研究推進本部が示す海溝沿いの震源モデルについては、津波の検討では当初確定論では扱わず、確率論の中で取り扱うこととしていた。既往の想定津波評価では、基準地震動策定のために設定している震源モデルの位置に、波源モデルを設定しておらず、この波源モデルの位置に、津波の波源モデルを設定すれば、これまでの想定津波高さを上昇側は上回り、下降側は下回る可能性が高い

「物」というのは、書面ではなく証拠物件ということ。
ようするにこういう前提で計算すると、津波の想定高が大幅に上がるだろうということ。

この次がすごい。

甲A184は、酒井氏らが平成20年1月23日から平成23年の2月26日かけて送受信した津波対策についてのメール、たくさんのメールの抜粋だ。これは、実際にはデータとして検察官が押収していたものを、検察官役が徹底的に検索をして、中身を読んで見つけたもの。そういう意味では、重要証拠としてピックアップしたのは検察官役の人がやった作業のようだ。

甲A184  酒井氏らが平成20年1月23日から平成23年の2月26日かけて送受信した津波対策についてのメール

平成20年1月23日に、酒井氏が中越沖地震対策センターつるがたかし氏らに送信したメールには、津波評価については、福島沖の基準地震動用地震モデルを津波に転換した場合に、NGであることがほぼ確実な状況。
ようするに、中間報告に含む含まないかに関わらず、津波対策は開始する必要があり、そうであるのであれば、少なくとも津波に関して中間報告に含む含まないの議論は不毛な状況。それよりも津波の上昇側の対策が現実にどのようにできるかが課題。

すごいでしょ、実際にやるしかないんだということを言っている。東電設計に発注した直後ぐらいのメールだ。

平成20年2月4日に酒井氏が東京電力のながさわかずゆき氏らに送信した1F、2F津波対策と題するメールには、1F、2F津波対策について、金曜日、山下センター長らと1F、2Fにバックチェック説明を実施。津波について、今回建築(*11)が基準地震動用に改訂指針で記載される不確かさを考慮して、福島沖にマグニチュード8以上の地震を設定。現在土木で計算実施中であるが、従前評価値を上回ることは明らか。1F佐藤GMからも強い懸念が示され、社内検討について、土木が検討結果を出してからではなく、早期に土木、機電で状況確認をする必要があるのではないかと認識。津波がNGとなると、プラントを停止させないロジックが必要。

ようするに、大きな津波が来ることになって、NGとなったら、もう原発を一度止めて津波対策工事にかからざるをえなくなる。でもその時に、原発を動かし続けながら津波対策をやることの理屈を考えなきゃいけない。みたいな議論をしている。

平成20年2月5日にながさわ氏が酒井氏らに送信したメールには、武藤副本部長のお話として、山下所長経由でおうかがいした話ですと、海水ポンプを建屋で囲うなどの対策が良いのではとのこと。

だから、6月に打合せしたとなっているが、もう2月の段階から、武藤さんはこういうことになりそうだという話は全部聞いていたことがわかる。

平成20年2月27日に、高尾氏が酒井氏らに送信した津波評価今村教授相談結果と題するメールには、福島県沖海溝沿いの津波について、その取扱を東北大学今村教授に相談してまいりました。先生からは福島県沖の海溝沿いでも、大地震が発生することは否定できないので、波源として考慮するべきと考える旨ご指導いただきました。

少なくとも今村さんはこの段階では絶対必要ですよと言っているわけだ。

平成20年2月28日の地震対策センターいとうたつや氏が、山下らに送信したメールには、昨日(2月27日)、武黒本部長に承認書のご説明をした際、耐震バックチェック中間報告や柏崎の基準地震動については、3月の常務会に付議するようご指示を受けました。常務会案件として早急にエントリーしておかないと、他の案件で埋まってしまうことも危惧されておりました。

要するに早く工事にとりかからなければいけないので、決裁の時間を事前に決めておけ、みたいな話をしている。

平成20年3月7日の酒井氏が高尾氏らに送信したメールには、同日の津波対策のスケジュールに関する打合せについて、本日担当ベースの表記会議で、津波高さが10m超になる旨、土木側から説明があったようです。

平成20年3月20日の酒井氏が土木グループ関係者らに送信した御前会議の状況

御前会議って言うんですよ。メールの名称が御前会議の状況。これに「」がついて取扱注意で転送不可と注記がついている。これは重要。ゆっくり読みます。

福島バックチェック関係、要対応津波関係。おおいで所長から推本モデルは福島県の防災モデルに取り込まれており、8m程度の数字はすでに公開されている。最終報告で示しますでは至近の対応が出来ないとのコメントがあり、今回基準地震動で評価するプレート沿いの推本断層モデルを評価することとなったことについて、土木学会では評価不要としていたこと、推本評価を踏まえて今回評価せざるを得なくなったことの事実関係をまず整理。津波に関しては推本モデルの適応ということで当社福島地点のみの問題ではないため、太平洋岸各社(*12)で連携して、アクションプラン等を明確にしていつのタイミングでどう打ち出すかを確定する。

平成21年9月24日に酒井氏が吉田氏らに送信した福島津波対策と題するメールには、吉田部長、山下センター長ほか関係各位 福島巨大津波(貞観津波、推本津波)対応について、適宜武藤常務以下に報告をしつつ進めております。先日、武藤常務から福島の津波の状況を聞かせて欲しい旨のオーダーがありました。個別に吉田部長、武藤常務に説明すること考えていたようです。

「巨大津波」ですよ。彼らは「推本津波」などと言っていたようだ。

次はとっても重要だ。

平成20年3月7日に、金戸氏らが出席して行われた津波対策のスケジュールに関する打合せの状況を記載したメモ。

NISA(*13)指示による耐震安全性評価の中で、津波に対するプラントの安全性を確認する必要があるが、土木グループの津波水位に関する評価状況から1F、2Fについては今まで想定していた津波の水位を上回る見込みである。社長会議にて説明ずみ。この結果から設備対策が必要となることから、土木、建築、機器、耐震各グループにて、今後のスケジュールを作成するため、スケジュール案を持ち寄り、打合せを実施した。また主な議論として打合せの中で土木グループから津波高さがO.P.+12〜13m(*14)程度になる可能性が高いとの説明があったが、機器耐震技術グループは福島サイトにおいて、O.P.+10mを越えると主要建屋に水が流入するため対策は大きく変わることを主張。用意したエンジニアリングスケジュールも津波水位がO.P.+10mを越えると成り立たないこと、対策事態も困難であることを説明。土木グループにて、再度水位設定条件を確認した上で津波想定高さが十数メートルとなる可能性について上層部へ周知することとした。

このへんで、15.7mというのは、彼らが想定した数値を数m上回っていた。10m超えるのは仕方ないだろう。だから5mぐらいの防潮堤を築くか、ぐらいのことは考えていたのかも知れないが、15.7mだと10m盤の上に10mということになりましたよね。それが当時考えていたものを大幅に上回ったんだろうと思います。

あと、大事なことは平成20年3月31日に福島県生活環境部長への耐震バックチェックの中間報告というものをしている。この関係で作られていたQ&A集というのがあって、当初、報道機関に対するQ&A集ではないかと言われていたが、やっぱり生活環境部長への説明だったようだ。この日に、福島県生活環境部長への耐震バックチェック中間報告ほかの説明結果について速報と題するメールがある。

平成20年3月31日 福島県生活環境部長への耐震バックチェック中間報告ほかの説明結果について速報

県側の「津波に対する安全性評価は、今回のバックチェック中間報告には入っていないのか」との質問に対し、東京電力は「津波の評価については最終報告にて報告する。最終の知見を踏まえて安全性評価を行う」

これもすごく重要だ。3月末の段階で、最終報告は平成21年の6月にやることになっていた。それまでに津波対策を完了させますということを県に明確に説明しているわけだ。このことは今まで明確に報道されていないけれども、そういうことを県に対して約束していた。このことは県の担当者の調書で明らかになっているようだ。

被告人武藤は、マスコミからの質問に対し、地質評価結果は7月までにまとめたい。バッチェックの最終報告は、2Fが平成21年3月、1Fは平成21年6月までにしたい。

というふうにマスコミに対して答えている。みなさん驚きませんか。耐震バックチェックが終わるということは、津波対策が基本的に完了していなければならない。けれども、実際に15.7mのシミュレーションが出てきて、これに対応するとなるとそれが間に合わない。だけれどもなんとか間に合わせようという状態になっていたことがわる。

津波鉛直壁を築いた時の図面 立体

津波鉛直壁を築いた時の図面 平面

法廷で提示された極めて重要な津波鉛直壁を築いた時の図面だが、実はもう一枚ある。これも見せていいということなんで。立体の図面とセットになっているもの。ブルーで線が引いてあるところが、鉛直壁を築く予定だった地点。4月23日にこれを説明した。

平成20年4月23日に、東京電力の金戸氏らが出席して行われた津波水位に関する打合せの議事録

津波の進行方向に対して鉛直壁の設置を考慮した解析結果が提示された。壁設置の場合、19m程度の水位を想定していることは対外的なインパクトが大きいと考えられるから、上層部の意見を聞く必要があり、土木グループにて対応予定。

わかりやすく言うと、思いもかけない大きな数値が出てきて、10m盤の上に10mの鉛直壁。こんな工事を始めたら、地元の住民が騒ぎ出して、原発を止めなきゃいけないんじゃないか、みたいな議論をしていたことがわかる。

平成20年7月21日に、被告人の武藤、武黒が出席して行われた「中越沖対応打合せ」

新潟県中越沖地震の発生にともなう影響額の見通しについてという資料が配布されて、耐震安全性強化工事等のコストだけでなく、福島第一第二に水平展開した場合の対策費用の計上もされていたということで、平成20年8月末をめどに計画総予算を設定する予定。

ものすごくお金がかかりそうだ、という議論が、武藤さんが計画を覆してしまう10日前に、武藤、武黒が出ている会合で話し合われていた。

そのあとにも、株主総会の本部長の手持ち資料の中に、O.P.+10mから12mの津波を考慮しなければいけないといったことも話し合われていた。

平成22年の8月から始まった福島地点の津波対策ワーキングの議事録と資料が4回分出されていて、これも重要だと思う。
平成23年3月7日のヒアリングの状況をまとめた資料などもある。

東京第五検察審査会の第二次議決、そして津波予測担当社員らを不起訴相当にした第一検察審査会の議決で、僕らはかなり勉強してきていて、ここで説明したものは全部それに沿っているから、そういう意味では予測可能だったと言えるかもしれないが、これだけの証拠が残っていた。

それを集めたのは検察庁で、それを分析してこういう形できちっとした資料にまとめてくれたのは、検察官役の指定弁護士だ。これだけの事実が、福島のみなさんがひどい目にあう背景に行われていた。

あらためて思うことは、日本の国の事故調査、検察の捜査がここまで隠ぺいされたということ。

僕達がこれだけ頑張らなければ、今日明らかになったような事実は全て闇に葬られていたかもしれない。いや、闇に葬られてしまっていたものを、検察審査会の委員の人たちが掘り出してくれた。

そしてそのあとを引き継いで、専門家の検察官役が徹底的に証拠を精査して、今日出てきた冒頭陳述、証拠類を作ってくれたのだ。

告訴団の告訴事件を担当させてもらって、強制起訴にまで持ち込んで、第一回公判を検察官役の隣で聞くことができたということは、感無量で涙が出るような経験だった。

支援団事務局注

  • *11 建築 文中の「建築」「土木」「機電」等は、それぞれ東京電力の部署グループの略称
  • *12 太平洋岸各社 太平洋岸に原発を持つ、東京電力・東北電力(東通・女川)・日本原子力発電(東海第二)
  • *13 NISA 経産省原子力安全・保安院
  • *14 O.P.+ 海抜高さ(いわき市小名浜港の海面高を基準)
添田孝史(そえだ たかし)
添田孝史(そえだ たかし)
サイエンスライター、元国会事故調協力調査員

ともに岩波新書

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