福島原発刑事訴訟支援団ニュース第5号 青空

全国から集まろう!4~6月に13回の公判!
「厳正な判決を求める署名」を広げよう!

佐藤 和良(福島原発刑事訴訟支援団団長)

福島原発刑事訴訟支援団のみなさま
さくらの季節になりました。お元気でお過ごしでしょうか。

鎮魂の3月11日。東日本大震災、福島原発事故から丸7年。やはり、心穏やかではありません。思いがこみ上げてきます。

人々がのみ込まれた大津波、取り返しのつかない福島第一原子力発電所の事故。未だ政府の原子力緊急事態宣言も解除されず、地震の揺れを感じるたびに記憶が戻ってきます。

日本最大の公害事件、東電福島原発事故の責任を問う刑事裁判。業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3被告の第1回公判が開かれたのは、昨年6月30日でした。半年もかけた論点整理の後、本年1月から2月に3回の公判が開かれ2人の証人尋問が行われました。

1月26日の第2回公判では、永渕健一裁判長が「主要な争点の確認―福島第一原発事故の予見可能性とその概要、被害者1名の死亡の因果関係」「証拠として書証300余、物証1、証人20人を採用」「期日は17回まで指定。秋まで証人20人、被告人尋問まで終える」としました。

第2回公判の証人は東京電力元社員の上津原勉氏でした。機械系のメンテナンスが専門で、事故前は自治体対応の窓口業務、事故当時は、原子力設備管理部の部長代理、事故後に東京電力の事故報告書を作成しています。 上津原証人に対して、検察官役の山内弁護士は、柏崎刈羽原発で実施した津波被水対策を福島第一原発で対策した場合について、水密扉や防潮壁をどのようにつくるかを尋ねると、上津原証人は「ハード的には、事故を防げた可能性はある」「防潮堤は、10m盤に10mの防潮堤をつくれば事故を防げた」「津波の波力と漂流物を考え、基礎をしっかり作らねばならないので、工事中はプラントを停止する必要がある」と証言しました。

2月8日の第3回公判では、新たに、証拠として、検察官役の指定弁護士から3点、被告弁護士から64点の書証が提出され、証拠の要旨説明が行われました。

検察官役の指定弁護士は、東京電力土木グループの社内メールで、武藤被告らが具体的な津波対策を継続して議論していたことを明らかにしました。2009年7月のメールでは、「武藤常務(当時)以下で、議論を重ね構造物での対策を検討してきております」が、「周辺集落の津波高が高くなるので、このような対策は社会的に受け入れられないとの判断」と記述されていました。

これは、2008年6月10日の武藤被告に15.7mの津波高が報告された会合を含めて、武藤被告ら経営陣と1年以上にわたり、防潮堤を含む具体的津波対策を議論してきたことを示すものでした。

2月28日の第4回公判では、東京電力の100%子会社・東電設計の社員久保賀也氏が証言しました。同社は企画・調査から設計・監理まで行うコンサルティング会社で、証人は、同社の土木本部構造耐震グループに所属、事故3年前に福島第一原発の津波想定を15.7mの津波高とまとめた津波計算の技術責任者を務めていました。

検察官役の石田弁護士が「何の仕事をしていたか」と尋ねると、久保証人は「耐震バックチェックの一環で地震の随伴事象である津波の検討、1Fと2Fの津波評価の業務委託を東京電力から依頼された」「平成19年(2007)11月に業務委託の打診があり、協議の都度、文書で確認し、契約仕様書(発注書)をつくった」と証言。そして、カウンターパートナーは、業務委託を依頼された東京電力原子力設備部の金戸氏で、協議の場に必ずいたことを証言しました。

久保証人は、3人で、津波高シミュレーションを行い、2008年3月、最大で15.7mを超える可能性がある速報値を東京電力の金戸氏や高尾氏らに面会して手渡した。その際、「東京電力には津波対策などの問題は残ると言われたが、結果は受領された」と証言しました。また、同年4月、10m盤の上に10mの防潮堤を作る鉛直壁でどこまで津波高が来るかの試算依頼に対して、試算を金戸氏らに手渡したことも証言しました。

そして、2002年の文部科学省地震調査研究推進本部による地震活動の長期評価について、2007年11月時点で、「長期評価が新しい知見として取り入れることが決まった訳ですね」と尋ねられると、「そうです」と証言しました。

さらに、15.7mの津波高シミュレーション後に、東京電力から東電設計に対し「なんとか津波高を解析で小さくならないか」「解析上の摩擦係数の見直しできないか」と依頼があり、久保証人は「数値は土木学会の手法に則っているので、変更はできない」と断り、解析条件を変えて試算したが、数値は15mを超え変わらなかったと証言しました。

このように1月から2月の証人尋問では、2人の証人が重要な証言を行いました。これからも、様々な事実が明らかにされていくと思います。

今後、4月から6月まで、13回の公判が開かれます。私たちは、引続き福島から公判の傍聴にかけつけます。被害者参加人の代理人として出廷する弁護団からの報告も毎回行い、公判内容を国内外に発信していきます。どうか、全国から傍聴に駆けつけてくださるようお願い申し上げます。

真の被害者救済の道を開くため、事故原因の究明、旧経営陣3被告の有罪を求め、東京地裁が厳正な判決を下すよう、東京電力福島原発刑事訴訟「厳正な判決を求める署名」を一人でも多くの方に広めてくださるよう、重ねてお願い申し上げます。

一緒に手をつないで一歩一歩前へ進みましょう。よろしくお願い申し上げます。


入会された方々から支援団へのメッセージ

秋田県 Sさん
国はますますフクシマをなかったことにしようとしています。無力感につぶされぬように、できることを考え、あきらめないことを、私自身に言い聞かせています。応援しています。
和歌山県Kさん
福島原発事故で本当に多くの方が多大な被害を被られ、このようなことが二度と起きないことを心より願い、この訴訟を支援させて頂きたいと思います。
千葉県 Fさん
原発事故の責任を誰れ一人取らない社会に、未来はありません。東電に原発事故の責任感が無いのは、許せません。オトシマエはきっちりつけてもらいましょう!
兵庫県 Uさん
フクシマを忘れません!
大阪府 Nさん
日頃の活動、ありがとうございます。多くの人の生活を壊し、環境を汚染し続けている取り返しのつかない原発事故。だれも責任を取らない現状を許してはならないと強く思っています。
海道 Mさん
不条理に共に立ち向かいましょう。応援します。
東京都 Sさん
業務上過失致死罪はあまりに当然です。この犯罪にどんな名前をつけたらいいのかわかりません。自分たちの身勝手で国土を壊し失わせ 本来人間のものではない大地海空すべてを致命的に汚し 暮らしを壊し奪い 何世代も何世代も先までを大きな不安で覆い 「希望」という最大の生きる支えを傷つけた、、、皆さまは私たちを代表して立ち上がってくださいました。感謝です。
  • *たくさんのメッセージを頂いております。ご紹介しきれなかった方々にも感謝申し上げます。

第3回・第4回公判報告

海渡 雄一(福島原発告訴団弁護団・被害者参加代理人)

第3回公判 追加書証の取り調べを実施

建築関係者の出席を求めるメールは具体的な対策を考えていた証拠

第3回公判は2月8日で、追加の証拠調べが行われ、証人調べはありませんでした。検察官役の指定弁護士と弁護側の双方が追加の書証の証拠申請を行い、その証拠の内容を説明しました。
検察官役の指定弁護士は3点の証拠を申請しましたが、その中には次のようなメールがありました。それは、東京電力の土木調査グループの金戸氏、酒井氏のメールです。2008年2月18日の金戸氏のメールは、同年2月22日に福島原発の津波バックチェックの打ち合わせを行うと関係者に呼びかけるものですが、これに対し、酒井より、「建築(*1)がいなくて大丈夫ですか?Ss(*2)を受けての話だから、建築関係者の出席は必須と思います。」などと記載されています。

構造物の設置は武藤常務以下に断られ、水密化を指向したことを説明するメール

2009年7月15日の酒井氏のメールは、「津波対策検討経緯」と題するものであり、「土方様さきほど話題に出た福島津波対策の件、武藤常務(*3)以下で議論を重ねてきておりますが、かつて、海中あるいは海岸にエネルギー減衰をねらって構造物を設置する、等の構造物対策も検討しましたが、

  • 結果的に、サイトの津波高さは下がるものの、周辺集落の津波高さが高くなってしまうことから、このような対応策は、
  • 社会的に受け入れられないとの判断で、力づくでの対策ではなく、
  • モ-ターの水密化を指向するとなった経緯があります。」などと記載されています。

弁護人は64点の書証を追加

弁護人は64点の追加書証を申請しました。弁護人は、実際に福島原発を襲ったような巨大な津波は予測できなかった、仮に対策をとっていたとしても、事故は防ぐことはできなかったなどと主張するため、多くの証拠を提出しました。

中央防災会議の推本に対する圧力と介入

その1つが、中央防災会議に出向していた内閣府の職員が事故の前に出していたメールです。このメールには、2002年に政府の地震調査研究推進本部が公表した地震の長期評価に関して、中央防災会議が、公表は社会的混乱を招くなどの意見を述べていた記述がありました。長期評価では、福島県沖でも大津波を伴う地震が起きる可能性が指摘されていました。しかし、内閣府の中央防災会議の職員は、当時、内閣府の中で、「どの程度の精度、信頼性か明らかにしないと防災機関や住民が混乱する」という意見が出ていたと、メールに書かれていたということです。しかし、この話は以前から明らかになっていたことですが、むしろ中央防災会議が原子力事業者や経産省の意向を受けて、原発の運転の支障となる長期評価の公表を妨害していたとされるものです。ここで大切なことは、中央防災会議はあらゆる防災を担当しますが、原子力発電所の安全性は稀にしか起きないような自然現象にも確実に対応しなければならない、高度な安全性の確保が求められているということです。

福島原発事故の後で東京電力が行った津波のシミュレーションの結果

また、弁護人は、福島原発事故の後で東京電力が行った津波のシミュレーションの結果を示しました。福島第一原発を襲った津波の高さなどをモデル化(L-67モデル)し計算したところ、当時の想定に基づいて原発の敷地の南側に防潮堤を建設していたとしても事故を防げなかったという結果が出たと説明しました。しかし、このモデルが、実際に地震と津波を忠実に再現したものであるかどうかは疑問です。今後、L-67モデルの実際のデータを公開させ、このモデルが実際の津波をどこまで再現しているものかを問うていく必要があります。

  • *1 :東京電力の部署グループの略称
  • *2 :基準地震動のこと。原発の耐震設計の基準となる地震のゆれの大きさや強さのこと
  • *3 :武藤栄被告人

不起訴の根拠補充のために検察官が東電に作成させた証拠

さらに、検察官が検察審査会の審理の中で、被告人ら3人を再度不起訴にした際に、その根拠付けとなる捜査結果をまとめた資料も証拠として提出されました。この中には「事故を防ぐには23メートル以上の防潮壁が必要だった」などと記されていたということです。しかし、この点も、高さ10メートルの防潮壁を超える部分はごくわずかであり、むしろ仮に高さ10メートルの防潮壁があれば、破局的な事故が避けられたことは東電の追加立証によっても明らかであるといえます。当日の審理は2時間ほどでした。

第4回公判 技術者の良心と気概を示した東電設計の久保賀也証人の証言

想定津波の策定の経緯

2月28日、東京地方裁判所で4回目の審理が開かれ、事故の3年前の2008年に福島第一原発の津波の想定をまとめた東京電力のグループ会社「東電設計」の久保賀也氏が証言しました。

まず、久保氏は、2007年に起きた中越沖地震を受けて福島第一原発の地震や津波への対策を評価し、保安院に提出する耐震バックチェックの基礎資料を作成する手続として委託されたと説明しました。

そして過去にも東電設計に対して、東京電力から津波評価についての依頼があったことに触れ、政府の地震調査研究推進本部が三陸沖から房総沖のどこでも大津波を伴う地震が起きる可能性があるとする「長期評価」を公表したこと、茨城県が津波の評価に関する新たなモデルを示したことなどから、こうした知見を取り入れて津波の評価をして欲しいという依頼がなされたと述べました。久保氏は、2007年11月19日に津波バックチェックは地震調査研究推進本部の評価に則ってやるように東電から指示されたと説明しました。

久保氏は、検察官役の指定弁護士の質問に対して、さまざまな条件を変えて計算し、設計想定津波は一番大きなものを想定すると説明しました。そして、高さ15.7メートルの津波が押し寄せる可能性があるという想定を東京電力に報告したと証言しました。この津波の高さについては、明治三陸津波は、最高で30メートルを超えていたので、事前にかなり大きいと言うことは予測していたと述べ、15.7メートルは予測の範囲内であったことを示唆しました。

この計算結果を東電に示した際には、東電の土木グループの高尾氏たちの反応としては、対策などの問題は残るが受領された、今後の検討については別途指示があるまで保留することになったと説明しました。

鉛直壁を立てた場合の検討

久保氏は、津波の想定をまとめた後、「原子炉建屋などがある場所を囲むような高さ10メートルの壁を10メートル盤(*4)上に設置したら、津波が壁にぶつかった後、どのくらいの高さに達するのか」をシミュレートすることを求められたと述べました。

久保氏が改めて計算を行ったところ、壁にぶつかった津波は最大で海面から19.9メートルの高さにまで跳ね上がる、敷地の南端、崖の際の部分が一番高くなっていると説明しました。

この想定をCGの画像にして提出したところ、東京電力からは「ほかの場所(たとえば4メートル盤(*5))に防潮堤を建設する案なども検討する」と連絡がありましたが、その後、特に指示はなかったのでそのような計算はしなかったということです。

久保氏は、(4メートル盤に設置されている)非常用ポンプも守らなければならないので、4メートル盤を囲むような計画も必要だと考えていたと述べました。

久保氏のこの計算は、防潮堤や防潮壁の設置など具体的な津波対策の設計検討を依頼されたわけではなく、鉛直壁の建設を仮定して、その際の津波の挙動を評価することが目的だったと証言しました。

現在弁護人らは、対策を立てたとしても、南側だけに防潮壁を立てたことになったはずであると主張していますが、東電からの依頼には、南側だけについて鉛直壁を築くというような要請はなかったことも久保氏は明らかにし、弁護人の主張は事実に反することがわかりました。

東電は津波を小さくできないかと依頼、久保氏は拒否

(2008年の4月以降に)15.7メートルの想定津波の報告のあと、東京電力の担当者から「計算の条件を変えたり、津波の動きかたを変えたりすることで津波を小さくできないか」と言われたと述べました。具体的には摩擦係数の見直しや高度な計算手法の取り入れを示唆されたと言うことです。

これに対して久保氏は、計算の条件については「専門家の決めた土木学会で使われている手法なので変えられない」と答えて、依頼を拒否したと述べました。津波の動きかたについては、残波や砕波について非線形解析を加えたりして、想定を変えて計算してみたが、実際には津波の高さはほとんど変わらなかったとも述べました。

延宝房総沖に波源を置くモデルも久保氏が策定

また、房総沖に波源を置く延宝房総沖モデルについては、2008年の10-11月に資料が東電に提出されており、茨城県の津波対策では中央防災会議が津波防災で使っていて、房総沖の波源モデルも既往モデルを北に80㎞移動して作成したものであると述べました。この波源モデルも久保氏が策定したものであることが明らかになりました。

検察官の依頼で、敷地の一部だけに防潮堤を築き、東日本太平洋沖地震を模擬する津波を再現

弁護人側の尋問では、第3回の公判で示された東電と検察官の作成した書証を示して内容を確認する尋問が続きました。

久保氏は、東日本太平洋沖地震を模擬して、津波を再現して、どれだけ津波が遡上するかという計算を検察官の依頼によって作ることになったと述べました。これは、直接対応したわけではなく、前提条件は高尾氏から言われ、10メートル超えたところを1.2倍して、防潮壁を南側など3個所だけに立てる計画にしたということです。

しかし、この際の想定では、防潮堤が南側など敷地の一部(3個所)だけに設置され、壁が垂直に切れている設定となっていました。しかし、(防潮壁を築くとした場合に)途中で切ってしまうような工事計画があり得るかと指定弁護士に問われて、久保氏は、「(こういう設計をすれば壁が)弱くなる。こういうことは考えられない。」と答えました。また、2008年当時にこういうものを作ったことはないとも述べました。弁護人の根拠とする南側などだけに防潮堤を築くことになったという主張が砂上の楼閣であることが明らかになりました。

これに対して、宮村弁護人は、(敷地の一部だけに防潮壁を築くこととした場合にも)鉛直壁の設置の計算拡がりの裕度を見込んでおり、左右に跳ね返りがあり得ることを想定して全体を囲うように設定したのではないかと聞き、久保氏は一応これを認めました。

しかし、これに対して、さらに、石田指定弁護士はピンポイントで津波が来ることを予測しても、津波の震源が少しでもずれたりすれば、その対策では対応できないのではないかと聞きました。これに対して、久保氏はそのとおりであることを認めました。

L-67モデルは東電設計の理学系の技術屋が作ったもの

この3.11津波の襲来を模擬したとされるL-67モデルについて、久保氏は、「自分はよくわからない。東電設計の理学系の技術屋が作ったもので、実際の津波を再現できるモデルとして提案したものだと聞いている。」と述べました。

  • *4 :1〜4号機建屋が建っている海抜10mの敷地
  • *5 :非常用海水ポンプなどがある海抜4mの敷地

10メートル盤に10メートルの防潮堤があれば一定の効果はあった

また、O.P.20メートルまで、すべての敷地全面に防潮堤が作られていたらどうだったかと指定弁護士に問われて、久保氏は、「一定の効果があった。一部津波が超えているが。防潮壁が壊れたらどうなるかはわからない。」と答えました。
10メートル盤に10メートルの防潮壁が作られていれば、有効な対策となったことを久保氏も認めたのです。

裁判官の補充尋問

陪席裁判官は、「現実的に設置可能な案」の策定の依頼はないのかと質問した。久保氏は、「そういう依頼はない。」「具体的な案は違う部門で検討される。」と答えました。

別の裁判官はこの津波の想定を東京電力の社員以外に伝えたかどうかを尋ねました。これに対して久保氏は、「どこから聞きつけたか分からないが、東電設計の当時の社長と土木本部長から内容を説明してほしいと言われたので報告した」と説明しました。この津波の想定に関する情報が東電内部から、東電設計の最高幹部にも駆け巡っていたことがわかります。

裁判長は、東京電力の担当者とのやり取りの際に、具体的にどのような発言があったのかを尋ねました。久保氏は「津波対策が必要だという話題は出たが、それ以上のやりとりやどのような様子だったかはおぼえていない」と答えました。

(法廷のようす。写真左側に被告人・弁護人が座り、右側に指定弁護士・被害者参加代理人が座る)
詳報 東電 刑事裁判「原発事故の真相は」|NHK NEWS WEBより:法廷のようす。写真左側に被告人・弁護人が座り、右側に指定弁護士・被害者参加代理人が座る)

事故3年後に作られた証拠
刑事裁判傍聴記:第4回公判

添田 孝史(サイエンスライター、元国会事故調協力調査員)

2月28日の第4回公判は、傍聴希望者187人に対し傍聴できたのは62人で、約3倍の倍率だった。
この日の証人は東電設計の久保賀也氏。東電設計は東電が100%の株を持つ子会社で、原発など電力施設の調査、計画、設計監理などを担っているコンサルタント会社だ。久保氏は、同社の土木本部構造耐震グループに所属し、津波計算などの技術責任者を務めていた。
今回の公判では、東電設計が計算した、以下の三つの津波シミュレーション関連を中心に尋問が進められた。

  • 1.)政府の地震調査研究推進本部が2002年に予測した津波地震が福島沖で発生したら、福島第一原発にどんな津波が襲来するか。また、どのような対策が考えられるか
  • 2.)もし1.)にもとづいて対策を実施していたら、2011年の東北地方太平洋沖地震の時、津波はどのくらい福島第一に浸水したか
  • 3.)東北地方太平洋沖地震の津波を防ぐには、防潮壁の高さはどのくらい必要だったか

証人尋問では、最初に指定弁護士の石田省三郎弁護士が、1.)のシミュレーションの経緯について明らかにしていった。東電設計は、東電からの依頼や打ち合わせの内容、資料、出席者等を品質マネジメントシステムISO9001の定めにしたがって詳細に記録していた。検察が持っていたその記録が、事故の経緯を明らかにする上でとても役立つことが、この日の証人尋問で見えてきた。
久保氏は、2007年11月から2008年夏にかけて、どんな考え方で1.)のシミュレーション作業を進めて高さ15.7mの津波想定を求めたか、また10mの防潮堤を設置する対策案の位置づけなどを証言した。津波を低くするために、東電が「摩擦係数の見直しができないか」と依頼し、東電設計が断わっていたことも明らかにした。

一方、弁護側の宮村啓太弁護士が強調してきたのは、2.)や3.)のシミュレーション結果だ。

1.)のシミュレーションで、東電設計は海抜10mの福島第一原発敷地の上を、ぐるりと全部取り囲む形で高さ10m(海抜20m)の防潮壁を設置する案を示していた。
2.)のシミュレーションは、いくつかの仮定にもとづいている。1.)で提案されていた敷地全部を取り囲む防潮壁のうち、海抜10m以上の津波が打ちつける部分「だけ」に、ピンポイントで防潮壁を作る。具体的には、敷地南部、北部と、中央のごく一部だけだ。その他の大部分の区間には防潮壁は設けない。
そのような、櫛の歯が欠けたような状態の防潮壁の配置のもとで、東北地方太平洋沖地震の津波が襲来したらどうなるかを計算すると、敷地の広範囲に浸水する、というのが2.)の結果だ。「対策をとっていても事故は避けられなかった」という東電側の主張を支えるものである。
これに対して石田弁護士は、2.)について、「敷地の一部だけに防潮壁を作るという対策が、工学的にありうるのか」と久保氏に尋ねた。久保氏は「弱い」と返答。「あまり考えられないのでは」という念押しに、「そうですね」と認めた。
2.)のシミュレーションは、40以上計算した津波地震の発生パターンのうち一つに絞り、それへの対策をピンポイントで実施する仮定にもとづいている。断層の位置、傾きなど地震の起こり方が少しずれるだけで、敷地のどこが一番高い津波に襲われるかというパターンも異なってくる。その不確かさを久保氏も認めた形だ。
3.)のシミュレーションは、東北地方太平洋沖地震の津波が全く敷地に遡上しないようにするためには、高さ何mの防潮壁が必要だったか試算。その結果、最大で高さ23m以上が必要だったことがわかったとしていた。
これについては、シミュレーション結果を詳しくみると、高さ23m以上の防潮壁が必要となるのはごくわずかの区間だけであることが石田弁護士から示された。高さ10mで全周を覆っていれば「(事故防止に)一定の効果があった」と久保氏も証言した。

そもそも、2.)3.)のシミュレーションは、勝俣・元会長ら3人に対し、検察審査会が「起訴相当」(起訴すべきだ)という1回目の議決を出した2014年7月の後で実施されたことも尋問の中で明らかにされた。事故から3年以上も経過したそのタイミングで2.)3.)のシミュレーションを実施した理由について久保氏は「わからない」と答えた。
しかしこの時期のシミュレーションは、「対策を取っていても事故は避けられなかった」という東京地検の不起訴判断を補強するために、東電や検察の意向に沿って実施されたように見える。そもそも、千万円単位にのぼるシミュレーション費用を誰がどういう名目で負担したのかも気になる。

弁護側が重視する2.)3.)のシミュレーション結果に、どれだけの意味があるかについては、4月以降の証人尋問で、さらに詳しく明らかにされることだろう。


「厳正な判決を求める署名」にご協力ください!

東京地方裁判所・永渕健一裁判長に宛てて、「厳正な判決を求める署名」を提出しています。
2月28日の第4回公判まで3回にわたり6,619筆を提出しました。裁判が続いている間、署名を提出し続けます。原発事故の責任を問う声を伝えましょう!
署名用紙はこちらからダウンロードできます。また、Change.orgにてネット署名も行っています。

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今後の公判予定について

  • 4月…10日(火)、11日(水)、17日(火)、24日(火)、27日(金)
  • 5月…8日(火)、9日(水)、29日(火)、30日(水)
  • 6月…1日(金)、12日(火)、13日(水)、15日(金)
  • ●公判の時間はすべて10時~17時(昼休憩挟む)
  • ●傍聴整理券配布時間は8:20~9:00予定(約1週間前に裁判所HPで発表されます)
  • ●公判終了後には、毎回、裁判報告会を行います。
    ・4月10日 参議院議員会館 101室 17時頃~
    ・4月11日 参議院議員会館 102室 17時頃~
    *会場は11時から開場します。休憩等にご利用ください。
  • ■色の公判日程は、公判併行の集会を開催します。
    ・4月17日 参議院議員会館 講堂 11時~16時半頃
    ・17時頃から裁判報告会・記者会見
    *以降は会場未定です

事務局からのお知らせとお願い

  • 『青空』は、振込用紙をお送りするため、メール登録されていた方も含めて1年に1回、会員・支援者の方全員に郵送しております。今号が全員郵送の号となります。
  • 支援団の活動は、みなさまの年会費・カンパで支えられています。まだ2018年の会費を納入されていない方は、納入をお願いいたします。
    • 年会費は一口1,000円、一口以上をお願いいたします。カンパも歓迎です。
    • 同封の振込用紙は会費・カンパの納入にご利用ください。発送作業の都合上、既にお支払い済みの方にも振込用紙が同封されております。お支払い済みの方には失礼をいたしますが、ご容赦ください。
    • 振込用紙(手書きの払込取扱票)で納入される場合は必ずお名前・住所をご記入ください。
    • ゆうちょ銀行の普通口座(通帳)からお振込み(窓口・ATM・ネットバンキング)をされる場合、その口座開設時のお名前・ご住所で通知されます。ご住所等に変更があった場合はその旨ご連絡ください。
    • ゆうちょ銀行以外の金融機関からお振込みされる場合、こちらには口座名義人のお名前がカタカナで通知されます。間違い登録を防ぐため、お手数ですがメール等で入金のご連絡をいただけると助かります。
    • 領収書が必要な場合はご連絡ください。メールの際は、件名を「領収書依頼」としてお送りください。
  • 支援団を、知人・友人の方々にも紹介して広めてください。ご紹介いただくために入会申込書などが必要でしたらご連絡ください。必要部数をお送りいたします。

ゆうちょ銀⾏(郵便局)からお振込みの場合

郵便振替口座:02230-9-120291
口座名:福島原発刑事訴訟支援団

その他の⾦融機関からお振込みの場合

銀⾏名:ゆうちょ銀⾏
⾦融機関コード:9900
店番:229
預金種目:当座
店名:二二九(ニニキユウ)
口座番号:0120291


ニュースの名前「青空」は、強制起訴が決まった2015年7月31日の東京地裁の前で見た「どこまでも晴れわたった青空」から命名しました。表題は佐藤和良団長の書によります。

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福島原発刑事訴訟支援団ニュース 第5号 青空
2018年4月1日発行
〒963-4316 福島県田村市船引町芦沢字小倉140-1
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